そろそろストーブを引っぱり出す季節だ。物置を開けると、去年の灯油が半分残ったポリタンクと、いつ買ったか分からないホワイトガソリンの缶が出てくる——これ、毎年どこかの家で起きている。
この2つ、「余った燃料」としてひとまとめに扱われがちだが、公的機関が示しているルールは別物だ。特に容器については、片方でやっていいことが、もう片方では明確に禁止されている。
結論から書く。すべて公的機関のページに書いてあることだ。
- ガソリンを、灯油用のポリ容器で保管してはいけない。徳島市消防が「絶対にしないでください」と書いている
- 去年の灯油は、熊本市のページが「廃棄」をすすめている。「見て判断して使う」ではない
- どちらも、直射日光と高温を避ける。物置なら安心、ではない(「風通しの悪い物置」は名指しで挙げられている)
- ポリ容器にも寿命がある。目安は約5年(製造年月が表示されている)
事故が起きたときの被害が大きい領域なので、公的機関が書いている内容を、どこが書いているかを示しながら進める。逆に言えば、出典が無い話はこの記事では書かない。
目次
まず容器:ガソリンと灯油で決定的に違う
ガソリンをポリ容器に入れてはいけない
徳島市消防が、ガソリン携行缶の取り扱いについてこう示している(徳島市公式ウェブサイト)。
そこに書かれているのは、灯油用のポリ容器に入れて保管することは絶対にしない、という一文だ。
使うのは、試験に適合していることを示す表示が付いた金属製の携行缶だ。ここは選択の余地がない。徳島市はこの表示を「試験確認済証」と呼んでいる(表示の呼び方については後述する)。
🔵 ホワイトガソリンについて:徳島市・熊本市のページはいずれも「ガソリン」という言葉で書かれており、「ホワイトガソリン」という語は出てこない。この記事では、ホワイトガソリンの容器と保管の扱いをガソリンの案内に従って読んでいる。ただし今回参照した4つの資料には、ホワイトガソリンについての記述は1行も無い。これは書き手による読み替えであって、出典に書かれていることではない。出典の原語が「ガソリン」であることは、はっきり断っておく。
なぜそこまで厳しいのか。徳島市のページに理由が書かれている。
- ガソリンの引火点は-40℃程度と低く、とても引火しやすい
- その蒸気は空気より約3〜4倍重いため、低いところにたまりやすく、燃える蒸気が広い範囲へ流れていく
- 静電気が蓄積しやすい液体である
引火点-40℃というのは、真冬の氷点下でも火が点くということだ。「寒いから安全」は成り立たない。そして蒸気が空気より重いので、床や地面を這って広がる。
灯油は「性能試験に合格したポリ缶」
灯油のほうは、専用のポリ容器が使える。熊本市の灯油の保管・取扱いに関するページではこう案内されている。
灯油を貯めたり扱ったりする容器は、灯油用として性能試験に合格したポリ缶を使ってほしい、という案内だ。
ペットボトル、ビン等の飲料水用の容器には入れられず、水を保管するポリ容器(ポリ缶)等なら何でも良いわけでもない、とも書かれている。そして容器の寿命についても明記がある。
容器の傷みにも注意が必要で、正しく使っていても5年を目安に買い替えるように書かれている。ポリ缶には製造年月が表示されているからだ。
製造年月は缶に書いてある。「ずっと同じ赤いポリタンクを使っている」という人は、一度ひっくり返して見てみてほしい。
ちなみに灯油の引火点は「40℃以上」
同じページに、灯油とガソリンを並べた記述がある。ここが両者の差をいちばん分かりやすく示している。
灯油の引火点は40℃以上だが、加熱などで液の温度が引火点以上になると、引火の危険性は引火点-40℃のガソリンとほぼ同じになる、と書かれている。
つまり灯油は「常温では火が点きにくい」だけで、温まれば危険性はガソリンに近づく。「灯油だから大丈夫」は、温度が上がっていない場合に限った話だということになる。灯油の蒸気も、空気より重い。
置き場所:「物置に入れてあるから大丈夫」ではない
ここがいちばん誤解されている。屋内に入れたことと、適切に保管したことは別だ。熊本市のページはこう書いている。
火の近くで保管したり扱ったりしないのは当然として、直射日光の下や、風通しの悪い物置のように高温になる場所でも保管しないように、という内容だ。
「風通しの悪い物置」が名指しされている。雨に濡れないことより、温度と風通しのほうが条件として重いということだ。
徳島市消防も、ガソリン携行缶について同じ方向の案内をしている。
夏だけでなくどの時期でも、直射日光の当たる場所や高温の場所に携行缶を置くと液体のガソリンや燃えやすい蒸気が大量に噴き出すおそれがあるので、日陰の風通しの良い場所に置いてほしいとしている。
🔴 車内放置は、実測で60℃を超えている
キャンパーが一番やりがちなのがこれだ。キャンプ道具を車に積みっぱなし。ここには推測ではなく、試験の実測値がある。国民生活センターの報道発表によると、直射日光が当たる車内に携行缶を置いたままにしたところ、中身の温度は60℃以上まで上がった。そして、内圧が上がった状態でキャップを外すと、ガソリンが激しく噴き出したという。
60℃以上。そしてその状態でキャップを外すと噴出する。車に積んだままの燃料が夏にどこまで温まるかは、CB缶と気温の話でも触れている。「積みっぱなしにしていた携行缶を、現地で開ける」という、ごく普通にやりそうな流れが、そのまま事故の手順になっている。
もう1つ、繰り返しの温度変化で缶に亀裂が入る
同じ報道発表には、缶に亀裂ができて漏れたと考えられる事例が2件載っている。原因は、保管中の温度変化で内圧が上がったり下がったりを繰り返したことだ。この2件は、同センターが各地の消費生活センターから受けた携行缶のテスト依頼3件——いずれも保管中にガソリンが漏れたという相談——の内訳にあたる。
一度の高温ではなく、暑い・冷えるの繰り返しで缶そのものが割れる。車載しっぱなし・日の当たる物置に置きっぱなしは、まさにこの条件だ。
そして注意書きの現状についても、はっきり書かれている。
内圧の変化で缶に亀裂ができるおそれがある、と書いてあったのは4銘柄のうち1銘柄だけだった、という調査結果だ。
缶に書いていないから安全、ではない。4つに3つは、この危険を書いていなかった。
🔴 去年の灯油は「廃棄」がすすめられている
秋に出てくる一番の疑問がこれだ。ここは私の判断ではなく、熊本市のページの結論をそのまま書く。
まず、何が起きるか。
直射日光が当たる場所や、高温多湿の場所に置かれていた灯油は、変質して、燃えにくい成分であるタールができている可能性がある。変質した灯油を使うと異常燃焼や燃焼不良を起こし、体に害のある一酸化炭素が出ることもあって、火災や中毒につながるおそれがある、というのが熊本市のページの説明だ。
そして、その直後にこう続く。
そのうえで熊本市が結論として置いているのが、去年のものは使わず、新しい灯油に買い替えることだ。処分のしかたにも触れていて、側溝や排水溝には決して流さず、ガソリンスタンドなどで引き取ってもらうよう案内している。
「見て判断してから使う」ではない。「廃棄して新しいものを使う」——これが熊本市の案内だ。
ネット上には「色や匂いで見分ける」という話が出回っている。この記事ではその判定方法は書かない。今回参照した公的機関のページには、色・濁り・匂いによる判定基準が一言も書かれていないからだ。出典の無い基準で「使ってよい/だめ」を判定させると、外したときに出てくるのが一酸化炭素になる。ここは、そういう賭けをしていい場所ではない。
灯油1缶の値段と、ストーブの故障や一酸化炭素中毒を天秤にかける話でもない。越冬した灯油は、捨てて買い直す。これがいちばん簡単で確実だ。
捨て方
🔴 側溝や排水溝には流さないよう、はっきり案内されている。案内されている方法は、ガソリンスタンドなどに引き取ってもらうことだ。引き取りの可否や条件は店によって違うので、持ち込む前に電話で聞くのが早い。
買い直した灯油を冬キャンプの石油ストーブで使うなら、給油の場所と雪の日の決まりも先に確かめておきたい。トヨトミの文書で読む石油ストーブの注意にまとめた。
🔴 混同そのものが危ない:灯油の機器にガソリンを入れてしまったら
この記事のテーマそのものだが、熊本市のページには取り違えたときの対応まで書かれている。
灯油用の暖房機器にうっかりガソリンを入れてしまったときは、そのまま使うと大変危険なので、絶対に使わずに、専門業者か製造メーカーに問い合わせるように書かれている。
「少しだけだから」「抜けば大丈夫だろう」は無い。絶対に使わず、専門業者かメーカーに聞く。ここは自分で判断する場面ではない。
だからこそ、容器を分けて、見て分かるようにしておくことに意味がある。金属の携行缶=ガソリン、赤いポリ缶=灯油。この区別が崩れた瞬間に、上の事故が近づく。
ホワイトガソリンの缶を、久しぶりに開けるとき
🔵 再度 断っておく。ここから引く徳島市の記述は、原語では「ガソリン携行缶」についてのものだ。今回参照した4つの資料に、ホワイトガソリンについての記述は1行も無い。この節は書き手がガソリンの案内を読み替えたものであって、出典がホワイトガソリンについて書いているわけではない。
そのうえで、まずKHKのリーフレットが保管そのものについて書いていることを引く。この記事の入口——「去年の燃料が物置に残っている」——への、いちばん直接的な答えだ。
そこに書かれているのは、ガソリンを容器に入れたまま長いあいだ置いたり、必要もないのに置いておいたりすることは、できるだけ避けてほしい、という一文だ(危険物保安技術協会(KHK)のリーフレット)。
🔴 長く置かない・必要がないなら置かない。灯油の「古いものは廃棄」と方向は同じだ。そもそも余らせない・持ち越さないのが、いちばん安全な扱い方ということになる。
そのうえで、手元にある缶を開けるときの手順を、徳島市の記述に沿って書く。ここは間違えると即 危険な部分だ。
まず、蓋を開ける前に、少しずつエア抜きをすること。
そして暖まっている場合の手順が、具体的に示されている。ここは時間まで書かれているので、そのまま引く。
直射日光や発電機の排気口などで缶が暖まっているときは、蓋を開けることもエア抜きもしない。まず周りに火の気も人もいない、日陰で風通しの良い場所へすぐに移す。そしてガソリンの温度が常温に下がるまで6時間ほど置いてから、ゆっくりエア抜きをする、という手順が示されている。
6時間。「日陰に移して少し待つ」ではない。
見分け方も書かれている。缶の内部が高温・高圧になっていると、外側が熱くなっていたり、蓋が固くて開けにくくなっていたりすることがあるという。
蓋が固いのは、錆びているからとは限らない。内圧が上がっているサインでもある。力を入れて回す前に、缶の外側を触ってみてほしい。
そのほか、キャンプでそのまま効くものを挙げておく。
- 蓋やエア抜きの締めが緩いと、燃える蒸気が出つづけて危ないので、使ったあとは確実に締める
- 注油する際は、蓋を開ける前に発電機などのエンジンを停止する
- 取り扱う場所の周囲に火源になりそうなものが無いことを確認する
ガソリンのストーブやランタンで、ポンピングしても圧が入らないときに見る場所は圧が入らないときの見分け方で症状ごとに分けた。
量が多い人へ:消防法のライン
キャンプ用途で該当することはまずないが、知識として。灯油は消防法上の危険物だ。熊本市のページには次のように書かれている。
- 容器が消防法令に適合していても、合計で200リットル以上を保管するなら、建物の大きな改修が要ることがある
- 200リットル以上(個人の住宅なら500リットル以上)で、1000リットル未満のとき:あらかじめ所轄消防署長への届出が必要
- 1000リットル以上:市町村長の許可が必要
いずれも、家庭用のポリタンクを何本も並べて置くような量の話だ。普通のキャンパーが超える量ではない。
ついでに、ガソリン携行缶のほうにも規定がある。国民生活センターによれば最大容積は消防法令により22Lと決められていて、落下・気密・内圧・積み重ねの各試験で基準を満たしていることが必要だ。
🔵 適合を示す表示について。ここは呼び方が複数あって紛らわしいので、出典に沿って整理しておく。
まず「試験確認済証」が何なのか。徳島市のページからリンクされている危険物保安技術協会(KHK)のリーフレットに、こう書かれている。
このラベルは、危険物保安技術協会が行った容器性能試験に合格した携行缶に貼られているものだ、と説明されている。
ラベルの図には「試験確認済証」の文字と「危険物保安技術協会」の名前が入っている。つまり「試験確認済証」は、KHKの試験確認を示すラベルそのものだ。国民生活センターが言うKHKマークも、危険物保安技術協会の試験確認基準を満たした運搬容器に付く表示、と定義されているので、同じKHKの試験確認を指している。
いっぽう、これとは別系統の表示がもう1つある。国民生活センターの注記から引く。
UNマークは、UN規格(危険物の国際輸送についての国際勧告)を満たした運搬容器に付くもので、これが付いていれば消防法令の試験基準を満たしたものとして扱われる、と注記されている。
整理するとこうなる。探すのは2系統だ。
- 試験確認済証(=KHKマーク)……危険物保安技術協会の容器性能試験に合格したもの
- UNマーク……UN規格(危険物の国際輸送についての国際勧告)を満たしたもの。これも消防法令の試験基準を満たしたものとして扱われる
そして「買うときに表示を見る」は、出典が2つとも書いていることだ。
KHKのリーフレットはラベルの付いた確かな製品を選ぶように呼びかけているし、灯油のほうも熊本市が、性能試験に合格した容器にはマークの表示が付いているので、買うときに販売店でしっかり確認してほしいと書いている。
まとめ:秋にやっておく3つ
- 容器を確認する。ガソリンは適合を示す表示が付いた金属製の携行缶(試験確認済証=KHKマーク、またはUNマーク)。灯油は性能試験に合格したポリ缶。ポリ缶は製造年月を見て、5年を目安に更新
- 置き場所を見直す。直射日光と、風通しの悪い高温の物置を外す。車内保管はやめる(実測で60℃以上)
- 🔴 越冬した灯油は使わず、買い替える。処分は側溝・排水溝に流さず、ガソリンスタンドなどへ
一酸化炭素そのものについては、キャンプの一酸化炭素中毒と換気・警報器の記事にまとめてある。
燃料の管理は、キャンプ道具の中でいちばん地味な部分だ。でもここだけは、失敗したときの被害が他と桁違いになる。シーズンの最初に10分かけて見ておく。それで一冬ぶんの安心が買える。
参考にした情報源
- 危険物保安技術協会|ガソリン携行缶リーフレット(PDF)(KHKの容器性能試験に合格した携行缶に貼られるラベルについての説明。徳島市のページからリンクされているもの)
- 徳島市|ガソリン携行缶の取り扱いにご注意ください!!(灯油ポリ容器での保管は絶対にしない、試験確認済証つき金属製携行缶、引火点-40℃程度、蒸気は空気より約3〜4倍重い、静電気、日陰の風通しの良い場所、蓋を開ける前に少しずつエア抜き、暖められている場合は常温まで下がる6時間程度おいた後に、蓋が固いときは高温・高圧のサイン、注油前のエンジン停止)
- 熊本市|ご家庭での灯油の保管・取扱いの留意事項について(灯油の引火点は40℃以上でガソリンは-40℃、性能試験に合格したポリ缶、ペットボトル・ビン不可、容器は5年目安・製造年月の表示、風通しの悪い高温の物置では保管しない、変質によるタールの発生、異常燃焼と一酸化炭素、越冬した灯油は使わず買い替えることをすすめている、処分は側溝・排水溝に流さずガソリンスタンド等で引き取り、灯油用暖房機器に誤ってガソリンを入れた場合は絶対に使用しない、200L/500L/1000Lの届出・許可)
- 国民生活センター|ガソリン携行缶の取り扱いに注意−取り扱いを誤るとガソリンの漏えいや噴出の原因に−(直射日光が当たる車内で内容物が60℃以上に上昇、内圧上昇状態でキャップを外すと激しく噴出、温度変化による内圧の変化の繰り返しで亀裂と漏えい、注意書きの記載は4銘柄中1銘柄のみ、最大容積は消防法令により22L、落下・気密・内圧・積み重ねの各試験)

