キャンプ場で誰かが倒れた。119番はかけられる。だが「住所を教えてください」と聞かれて、答えられるだろうか。スマホの位置情報があるから大丈夫、とも思いたくなるが、消防本部が公表している誤差の説明を読むと、そう単純ではない。この記事は、消防庁と各消防本部の資料だけを材料に、通報のときに何を言えばいいのかを整理したものだ。
目次
結論:位置情報は「補助」であって「答え」ではない
- 厚木市消防本部の説明では、GPS機能を積んだスマートフォンでも、電波の受信状態によっては数十メートルの誤差が出る。GPSを使わない携帯電話では数百メートルから数キロメートルの誤差が生じるとされている
- だから消防庁も各本部も、住所を、分からなければ近くの目印を伝えるよう案内している
- 東京消防庁は山岳地について、目標になるのは入山ポイントや、GPSが示す緯度経度だとしている。示されている例は「○○山××口から1時間ほど登った地点です」という言い方になる
- 神戸市は、山中からの通報は居場所の割り出しにも救助隊の到着にも時間がかかるとしたうえで、指令員の指示を落ち着いて聞くことが最善の道だ、と書いている
- つながらないときの手もある。消防庁は、公衆電話を使う、近隣の人やお店に通報を頼む、消防署所に直接駆け込む、という対応を挙げている
位置情報の誤差は、どれくらいか
厚木市の「119番通報時の位置情報通知システムについて」は、通報と同時に指令台の電子地図へ位置が表示される仕組みを説明したうえで、精度を3つに分けている。
- 固定電話:受付とほぼ同時に、正確な位置が分かる
- GPS機能を積んだ携帯電話・スマートフォン:条件が最適で電波も良ければ、誤差は数メートル。ただし電波の入り方が悪いと、数十メートルの誤差が生じることがある
- それ以外の携帯電話:事業者ごとの基地局の位置などから割り出すため、電波の入り方によって数百メートルから数キロメートルの誤差になる
そのうえで同ページは、機種や電波の状態によっては正しい位置をつかめないことがある、と断っている。だから消防車・救急車が向かう住所を、それが分からないときは近くの目標物などを伝えてほしい、という案内だ。固定電話からの通報であっても、住所や近くの目標物は確認させてもらっているとも書かれている。
消防庁が「必ず聞くこと」として挙げているもの
総務省消防庁のページには、通報を頼まれたときの案内がある。まず、慌てず落ち着いて話すこと。指令員が出動に必要なことを順番に聞くので、落ち着いて答えればいい、という組み立てだ。
必ず聞かれるものとして挙がっているのは2つだ。1つめは、消防車・救急車が向かう先の住所。これが分からないときは、目印になるもの——近くの大きな建物や交差点など——を伝えるように、と書かれている。2つめは、通報している人の名前と連絡先。到着までのあいだに、場所の確認などで問い合わせが入ることがあるからだという。このほかの状況についても、指令員から聞かれる。
つながらなかったときの道
同じ消防庁のページには、携帯電話などから119番につながらないときの案内も出ている。通信や通話の障害でつながりにくいときは、次のような対応をお願いします、という書き方だ。公衆電話を使う。近くにいる人やお店に、通報そのものを頼む。あるいは消防署所へ直接 駆け込む。
キャンプ場に管理棟があるなら、そこには固定電話があることが多い。厚木市の説明に照らせば、固定電話は「ほぼ同時に正確な位置を把握できる」側になる。誰かを走らせられる状況なら、管理棟は有力な選択肢になる。
なお消防庁は、119番がつながるかどうかを確認するための通報は控えるように、とも書いている。同時に受け付けられる通報の数には限りがあるためだ。
山や林の中では、何を言えばいいのか
東京消防庁の「119番通報の仕組み」も、携帯からの通報では出動先を割り出すのに時間がかかる場合がある、としている。住所が言えないときは、建物の名称や交差点名、店舗名などを伝えてもらえれば、勤務員が地図を見ながら場所を絞っていく、という説明だ。
目標になるものは5つに分けて挙げられている。建物や店舗などの名前。道路(○○通り、○○街道)と交差点。交通機関の駅や停留所。公園・橋といった公共施設の名前。そして街区表示板だ。
そして登山中の事故については、別に項目が立ててある。山岳地で目標になるのは、入山ポイントと、GPSが示す緯度経度だという内容だ。例として置かれているのは、次のような言い方になる——「○○山××口から1時間ほど登った地点です」。
ここは覚えて帰る価値がある。「どこから入って、そこからどれくらい進んだか」が、そのまま住所の代わりになる。キャンプ場の外へ散策に出るときも、入口の名前と歩いた時間は、頭に置いておける情報だ。
携帯電話から通報するときの要領
同ページには、携帯電話等からの通報要領も並んでいる。
- かける前に、自分がどこにいるか・何が目標になるかを確かめる
- 運転中なら、安全な場所にいったん停めてからかける
- 自分の電話番号を、すぐ口に出せるようにしておく
- 地下街やトンネルの中では、携帯がつながりにくくなることがある
- 高速道路にいるなら、路線の名前と、上りか下りかの車線を確かめてからかける
- 聞き間違いを防ぐため、住所や目標を2回たずねられることがある
- 状況を確かめるために、救急隊のほうから電話が来ることがある
- 救急隊が着くまで、電源は切らない
最後の1つは、キャンプでとくに効いてくる。夜通し使ったスマホのバッテリーが残っていなければ、折り返しの電話を受けられない。
そしてもう1つ、注意事項として添えられている一文がある。東京都内には同じ町名が複数の区市町村にあることが多く、例として板橋区の富士見町と八王子市の富士見町が挙げられている。そのうえで、通報の際には初めに区市町村から伝えてください、と書かれている。
同じ地名が離れた場所にある、という事情は東京都内に限った話ではない。キャンプ場は、市町村の名前まで言えて初めて場所が絞れる——と考えておくと、予約票のどこを覚えて帰るべきかが変わってくる。
神戸市が用意している「命の道標」
神戸市の「山の中からの119番通報」の書き出しは、期待を持たせない。山の中からかけた場合、居場所を割り出すのにも、救助隊がたどり着くのにも時間がかかる。だからこそ、指令員の指示を落ち着いて聞いてもらうこと。それが最善の道だ——という内容になっている。
そのうえで紹介されているのが、119番通報プレート(命の道標)という仕組みだ。目印の無い山の中で居場所を割り出すための情報が表示してあり、通報するときはプレートの番号を伝えてほしい、という案内になっている。ページに載っている例は「き35-8」。どこに設置されているかは、神戸市情報マップで確認できるという。
これは神戸市の取り組みであって、全国どこにでもあるものとして書かれてはいない。ただ「番号が書かれた札が立っていたら、それは位置を伝えるための仕掛けかもしれない」と知っておくだけで、見え方が変わる。
行く前にやっておけること
同じページには、出かける前の準備も挙がっている。登山地図のアプリをスマートフォンに入れ、地図そのものを先に落としておくこと。そうしておけば電波の状態が悪くても現在地と地図が出て、緯度経度も常に表示されるという。携帯バッテリーも必ず用意しておくこと。そして、通る道を前もって覚えておくこと。どこから入ってどこから下りるつもりか、そしてどれだけ時間が経っているか——それを伝えるだけでも、居場所の絞り込みにつながると書かれている。
キャンプ場に置き換えると(一般論として)
ここから先は出典に書かれていることではなく、上の資料を踏まえた一般的な段取りとして書く。
- 着いたら、キャンプ場の正式名称と住所をスマホに控える。予約メールを開き直すより速い場所に置いておく
- 管理棟の場所と、営業時間を確認しておく。固定電話が使える時間帯かどうかで、選べる手が変わる
- サイト番号を覚えておく。広い場内では、住所が合っていても最後の数十メートルで迷う
- 散策に出るなら、入口の名前と歩いた時間を意識する。東京消防庁が挙げている「○○山××口から1時間ほど」の形がそのまま使える
- バッテリーを残しておく。折り返しの電話を受けられる状態が、通報の一部だと考える
実際に119番が要る場面については、秋キャンプのスズメバチ対策とキャンプの一酸化炭素中毒対策でも触れている。あちらは「どんなときに呼ぶか」、この記事は「呼んだあと、何を言うか」を担当する。
まとめ
119番はかけられても、位置が伝わるとは限らない。GPSを積んだスマートフォンでも電波次第で数十メートル、そうでない携帯なら数百メートルから数キロメートルの誤差が出ると、消防本部が公表している。だから消防庁も各本部も、住所を、分からなければ近くの目印を、と繰り返し書いている。山岳地なら入山ポイントと経過時間が目標になる。管理棟の固定電話、サイト番号、残しておくバッテリー——どれも出発前に準備できることばかりだ。使わずに済むのがいちばんいい。

