キャンプ場でゴロゴロと鳴りはじめたとき、多くの人がとる行動は「とりあえずテントに入る」です。これは避難になりません。
結論を先に言います。気象庁が「安全な空間」として挙げているのは、鉄筋コンクリートの建物・自動車(オープンカーを除く)・バスや列車の内部・木造建築の内部で、テントはこの中に入っていません。そして動きだすタイミングは「近づいてきたら」ではなく、かすかでも雷鳴が聞こえた時点とされています。
この記事では、キャンプ場という場所に限って、①どこへ逃げるか ②いつ動くか ③どこにも逃げられないときにどうするか ④いつ戻っていいか を、気象庁・文部科学省・日本大気電気学会の公開資料をもとに整理しました。参照したページのURLは記事末尾にすべて載せてあります。
目次
テントの中に入っても、避難したことにはならない
気象庁が挙げる「安全な空間」に、テントは入っていない
気象庁の「雷から身を守るには」では、避難先として次の場所が挙げられています。
- 鉄筋コンクリート建築
- 自動車(オープンカーは不可)
- バス、列車の内部
- 木造建築の内部(すべての電気器具、天井・壁から1m以上離れるとさらに安全とされています)
テントもタープも、この4つのどこにも当てはまりません。ここは正確に言っておきます。公的資料に「テントは危険だ」と書いてあるのではなく、「安全な空間として挙げられていない」のです。今回参照した気象庁・文部科学省・日本大気電気学会の資料には、テントという言葉自体が出てきません。
キャンプ系の記事では「テントの金属ポールが雷を引き寄せるから危ない」という説明を見かけることがあります。ただ、この説の当否は、今回参照した公的資料では確認できませんでした。確実に言えるのは「安全な空間として挙げられていない」ということだけで、避難の判断にはそれで十分です。
タープ・東屋・炊事棟の屋根も、それだけでは避難先にならない
雨をしのぐという意味では、タープの下も炊事棟も屋根です。ただ、雷に対しては「屋根があること」と「安全であること」は別物です。判断の基準になるのは建物の構造であって、屋根の有無ではありません。
逆に言えば、構造しだいでは屋根つきの休憩所も避難先になり得ます。日本大気電気学会は、落雷に対して絶対安全な空間はファラデー・ケージ(導電性の高い金属製のカゴ)の中であるとしたうえで、ゴルフ場などについてその条件を満たす「避雷東屋」の設置が望ましいとしています。つまり避雷設備の有無で結論が変わるということで、見た目が同じ東屋でも中身は違います。判断がつかないなら、東屋ではなく車を選んでください。
キャンプ場でありがちなのは、雨が強くなってきたのでタープの下に人が集まり、そのまま雷鳴を聞いている、という状況です。この状態は「雨宿りはできているが、避難はできていない」と考えてください。
そもそもキャンプ場は、気象庁が挙げる「危険な場所」に近い
気象庁は、雷に対して危険な場所として次を挙げています。
- グランドやゴルフ場
- 屋外プール
- 堤防や砂浜、海上などの開けた場所
- 山頂や尾根などの高いところ
広い芝生のサイト、川沿いや湖畔のサイト、高原のサイト——キャンプ場としての魅力そのものが、この条件に重なります。「うちのキャンプ場は開けていて気持ちいい」は、雷の話に限れば注意すべき条件だということです。
キャンプ場で実際に避難先になるのは、車か鉄筋コンクリートの建物
いちばん現実的なのは、自分の車
オートキャンプなら、答えはたいてい足元にあります。気象庁も文部科学省の通知も、自動車の内部を安全な場所として挙げています。ただし、気象庁が挙げているのは自動車(オープンカーは不可)・バス・列車の内部という範囲です。
- オープンカーは対象外と明記されています
- バイクや自転車は、この列挙に含まれていません。「乗り物だから安全」ではない、ということです
ひとつ付け加えておきます。日本大気電気学会は、「落雷が集中するような嵐の中では、しばしば竜巻などの突風も発生し、乗用車は横転する危険がある」としています。車は雷に対する避難先としては有効ですが、風に対しては万能ではないということです。木の真下や、倒れそうなものの脇に駐めているなら、雷雲が来る前に位置を変えておくほうが安全です。
サイトから車まで距離があるレイアウトのキャンプ場だと、この移動そのものに数分かかります。「鳴ってから走る」では間に合わないことがあるというのが、次の章の話につながります。
なお、車の中で過ごす前提の装備をあらかじめ持っていくと、こういう場面でだいぶ楽になります。詳しくは車中泊キャンプ完全ガイドにまとめてあります。
管理棟・トイレ棟が鉄筋コンクリートなら、そこも避難先になる
キャンプ場によっては、管理棟やシャワー棟、トイレ棟が鉄筋コンクリートで建っています。使えるなら、これも避難先です。チェックインのときに「雷が鳴ったらどこへ避難すればいいですか」と一度聞いておくと、当日迷いません。夜間や早朝に施錠される建物もあるので、そこも合わせて確認しておくと確実です。
木造の建物の場合、気象庁は内部を安全な空間に挙げたうえで、すべての電気器具や天井・壁から1m以上離れるとさらに安全だとしています。日本大気電気学会は、家の中は基本的には安全としつつ、電灯線・電話線の回路を介して雷の電流が入り込む危険性にも触れています。壁際やコンセントの脇に張りつくのではなく、部屋の真ん中でしゃがんで待つ、というイメージです。
動きだすのは「かすかな雷鳴が聞こえた」時点
雷鳴は、距離をはかるための音ではない
文部科学省が学校向けに出した「落雷事故の防止について」という通知は、日本大気電気学会の資料を引いて、「雷鳴はかすかでも危険信号であり、雷鳴が聞こえるときは、落雷を受ける危険性がある」としています。
つまり、「まだ遠いから大丈夫」という判断のしかたが、そもそも成り立たないということです。光ってから音が鳴るまでの秒数を数える方法は知られていますが、それは「まだ避難しなくていい」という根拠にはなりません。聞こえた=もう動く、で統一しておくのが安全です。
雷ナウキャストを使えば、鳴る前に動ける
キャンプでありがたいのは、鳴る前から準備を始められる手段があることです。気象庁の雷ナウキャストは、雷の激しさや発生の可能性を1km格子で解析し、10分ごとに更新して1時間先(10〜60分先)まで予測を出しています。
表示は活動度1〜4の4段階です。気象庁は活動度2以上について「落雷の危険が迫っている状況」で、直ちに身の安全を確保する行動が必要としています。そのうえで、こう補足されています。
- 活動度2は、まだ活発に感じないか、落雷が発生する直前という段階で、気を許しがちになる。この段階で行動をとることが被害の軽減に大切
- 安全確保に時間を要する場合は、活動度1の段階から行動することが被害の防止につながる
キャンプはまさに「安全確保に時間を要する場合」です。撤収まではしないにしても、活動度1が出た時点で、貴重品をまとめて車の鍵を手元に置き、離れた場所にいる家族を呼び戻す——それくらいは始めておいてよいと思います。
車にも建物にも入れないときの、最後の手段
徒歩サイトや、車まで距離がある区画にいて間に合わない。そういう場合に気象庁が示しているのが「保護範囲」への退避です。これは安全な空間の代わりではなく、あくまで避難できない場合の次善策だという前提で読んでください。
保護範囲とは「45度以上に見上げる範囲で、4m以上離れたところ」
気象庁は、電柱・煙突・鉄塔・建築物などの高い物体について、てっぺんを45度以上の角度で見上げる範囲で、その物体から4m以上離れたところを保護範囲と呼び、そこに退避するとしています。
日本大気電気学会も同じ考え方を示しており、高さが4m以上20mまでの物体の頂点を45度の角度に見る空間を保護範囲とし、ほぼ安全といえるとしています。紛らわしいので整理しておくと、気象庁の「4m以上」は物体から離れる水平距離、学会の「4m以上20mまで」は物体そのものの高さです。同じ数字ですが意味が違います。
感覚としては、高い物のすぐ足元でもなく、遠く離れた場所でもなく、その中間です。ぴったり張りつくと側撃(物体に落ちた雷が人に飛び移ること)の危険があり、離れすぎると保護の外に出てしまう。だから「4m以上離れて、見上げる角度は45度より急」という二つの条件がセットになっています。
木の下は、いちばんやってはいけない雨宿り
まず前提として、気象庁が保護範囲の例に挙げているのは電柱・煙突・鉄塔・建築物であって、木は入っていません。そして日本大気電気学会は、立ち木についてはっきりこう書いています。
立ち木は4mでも側撃を受ける危険性があるため、とにかく近寄らないようにする
気象庁も、高い木からは最低でも木のすべての幹、枝、葉から2m以上離れるとしています。幹から2mではなく、いちばん外側に張り出した枝葉の先端から2mです。実際に必要な距離は、思っているより遠くなります。
雨が強いときほど木の下に入りたくなりますが、雷に関してはここが最も危険な選択になり得ます。木は「保護範囲を作ってくれる物体」として数えないでください。
姿勢は「しゃがむ」。座り込むのと寝そべるのは、やってはいけない
ここは間違えると命に関わるので、丁寧に書きます。気象庁は、避難できない場合の対応として次を挙げています。
- 姿勢を低くする
- 持ち物は体より高く突き出さない(釣り竿・タープのポールなどが該当します)
傘については、日本大気電気学会がもっと強い言い方をしています。「雷雨中に傘を差す事は絶対に避ける」。雨が強くても、雷が鳴っているあいだは傘をたたんでください。
ただし「低くする」は「地面に伏せる」ではありません。気象庁は、保護範囲に退避していても、落雷地点の近くで座ったり寝ころんでいたりすると、地面に接触している身体の部分にしびれ・痛み・ヤケドが発生し、ときには歩けなくなることがあるとしています。日本大気電気学会はさらに踏み込んで、地面に腹ばいになることについて、近くの地面への落雷電流による歩幅電圧や沿面放電で心室細動(心停止)の危険性があると説明しています。
では正解は何かというと、学会が具体的に示している姿勢がこれです。
両足を揃えて膝を充分に折って上半身は前かがみになり、両拇指で耳の穴を塞ぎ鼓膜が爆風で破れるのを予防し、残りの指で頭をかかえ下げ、雷雨の通過を待つ
ポイントは「両足をそろえる」「地面に接する面積を増やさない」の2つです。学会が腹ばいの危険性の理由として挙げているのが「歩幅電圧」と「地面と体表面の間の沿面放電」であることを踏まえると、足をそろえてしゃがみ、頭を抱えて待つという形になります。座り込む・寝そべるは、この逆をやっていることになります。
キャンプでよく聞く雷の話で、公的資料と食い違うもの
ここは知っておく価値があります。文部科学省の通知は、日本大気電気学会の知見として次のように書いています(原文の記号を一部読点に改めています)。
人体は同じ高さの金属像と同様に落雷を誘因するものであり、たとえ身体に付けた金属を外したり、ゴム長靴やレインコート等の絶縁物を身に着けていても、落雷を阻止する効果はないこと。
つまり、
- ネックレスや腕時計、ベルトの金具を外しても、落ちにくくはならない
- ゴム長靴やレインウェアを着ていても、落雷そのものは防げない
これは「外すな」という話ではなく、外したことで安心して避難が遅れるほうが危ない、という話です。金属を外す数十秒があるなら、その時間で車に向かったほうがいい。優先順位はそこにあります。
なお、キャンプの現場でよく語られる細かい姿勢のコツ(つま先立ちなど)については、今回参照した気象庁・日本大気電気学会の公開資料で裏づけを確認できませんでした。確認できないものは、この記事では扱いません。公的資料が示している「足をそろえてしゃがむ/持ち物を突き出さない/車か建物へ」を守るのが確実です。
いつ再開していいか。20分か、30分か
この待機時間、公的な資料でも数字が2つあります。ただしよく読むと、想定している場面が違います。
- 気象庁:雷の活動が止み、20分以上経過してから「安全な空間へ移動」する。これは保護範囲でしゃがんで耐えていた人が、動きだしてよいタイミングの話です
- 日本大気電気学会:雷鳴後30分経過しても次の雷鳴を聞かなくなったら、中断した屋外行事を「再開してもよい」。これは屋外の活動そのものを再開してよいタイミングの話です
向きを間違えないでください。気象庁の20分は「屋外から車や建物に入る」ときの目安であって、「車から出る」ときの目安ではありません。キャンプに当てはめると、順番はこうなります。
- 20分:木から離れてしゃがんで耐えていた人が、車や建物へ向かって動きだす
- 30分:車から出て、焚き火や食事といった屋外の活動を再開する
今回参照した公的資料の中に、「車から出てよいタイミング」を示したものはありませんでした。屋外に戻る根拠として使えるのは学会の30分のほうだけなので、車から出るのは30分待ってからにしてください。
そして途中でもう一度鳴ったら、そこからやり直しです。雨がやんで空が明るくなってきても、時計を見て待つ。それくらいで構いません。
もし人が雷に打たれてしまったら
起きてほしくないことですが、触れておきます。日本大気電気学会は、「たとえ直撃雷や側撃雷を受けても、早い蘇生措置により一命を取り留める場合がある」としています。
ポイントは「早い」のほうです。到着を待つだけにしないでください。総務省消防庁の応急手当WEB講習は、119番通報したときの動き方をこう案内しています。
通信指令員から心肺蘇生の方法等の指示があるので、その指示に従って行動しましょう
つまり、やることはこうです。
- まず119番。自分の周囲の安全を先に確保する(雷が続いているあいだは、助けに行く人も同じ危険にさらされます)
- 通信指令員の質問に落ち着いて答え、指示に従って動く。反応や呼吸がない場合の胸骨圧迫のやり方は、電話越しに案内してもらえます
- AEDがあれば使う。設置しているキャンプ場もあるので、チェックインのときに避難先とあわせて場所を聞いておくと、探し回らずに済みます
出発前にできること
ここまでは「鳴ってから」の話でした。最後に、出かける前の話を少しだけ。
気象庁は、雷への備えとして前日や当日の朝に天気予報を確認すること、外出前に雷注意報が出ていないか確認することを挙げています。キャンプなら、これに「現地の地形」と「避難先の有無」を足すと実用的です。
- 予報と雷注意報を、前日と当日朝の2回見る
- チェックイン時に雷のときの避難先を管理人さんに確認する
- サイトから車までの距離を、着いた時点で把握しておく
雷の起きやすさには地域差もあります。気象庁の統計では、宇都宮のような内陸部では夏に雷の日が多く、金沢のような日本海側では冬に多いという傾向が示されています(気象庁は、これらの地点の平年値について観測自動化以前の参考値であると注記しています)。行き先の季節ごとの傾向を一度見ておくと、計画の段階で判断しやすくなります。
雷は雨とセットでやってくることが多いので、雨そのものへの備えはキャンプの雨対策14のポイントを、避難先のあるキャンプ場かどうかという視点はキャンプ場の選び方完全ガイドも合わせて読んでみてください。
まとめ:判断に迷ったら、車に入って待つ
覚えることを絞るなら、この4つです。
- テントとタープは避難先ではない。気象庁が挙げる安全な空間は、鉄筋コンクリートの建物・自動車(オープンカーを除く)・バスや列車・木造建築の内部。東屋や休憩所は、避雷設備の有無で結論が変わるので、判断がつかないなら車へ
- かすかな雷鳴が聞こえたら、その時点で動く。雷ナウキャストの活動度1〜2の段階で準備を始められればなお良い
- 逃げ込めないときは、木から離れて、足をそろえてしゃがむ。座り込む・寝そべるのは危険
- 待つ時間は、屋外から車・建物へ入るのが20分、車から出て屋外の活動を再開するのが30分。途中で鳴ったら数え直し
そして最後にひとつ。実際の判断は、現地の状況とキャンプ場の指示が優先です。管理人さんが「避難してください」と言ったら、この記事より先にそちらに従ってください。設営したばかりでも、火を熾したばかりでも、雷が鳴っているあいだは片づけよりも避難が先です。テントは張り直せます。
参考にした情報源
- 気象庁「雷から身を守るには」(安全な空間・危険な場所・保護範囲・木から2m・座る/寝ころぶことの危険・20分の目安)
- 気象庁「段階的に発表する気象情報の利用」(前日・当日朝の予報確認、外出前の雷注意報の確認)
- 気象庁「雷ナウキャストとは」(1km格子・10分ごと更新・1時間先までの予測)
- 気象庁「雷ナウキャストの見方」(活動度に応じてとるべき行動)
- 気象庁「雷の観測と統計」(内陸部は夏、日本海側は冬に多い傾向・平年値の注記)
- 文部科学省「落雷事故の防止について(依頼)」(かすかな雷鳴も危険信号/身に付けた金属・絶縁物に落雷を阻止する効果はない)
- 日本大気電気学会「雷から命を守るための心得」(保護範囲の定義・立ち木への接近・腹ばいの危険・緊急時の姿勢・傘・30分の目安・ファラデーケージと避雷東屋・嵐の中の車の横転・蘇生措置)
- 総務省消防庁「応急手当WEB講習」(119番通報時に通信指令員から心肺蘇生の方法等の指示を受けられること)
この記事は上記の公的機関・学会の公開資料をもとに構成しています。雷の状況は現地の地形や天候によって大きく変わります。実際の避難の判断は、気象庁の最新情報とキャンプ場の指示に従ってください。


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