秋のキャンプは、虫が減って過ごしやすい。ただしハチについては、秋になっても危険な時期が続いている。厚生労働省 鳥取労働局が出している注意喚起資料によると、スズメバチに刺される危険な時期は一般に7月〜10月とされ、しばらくは気をつける必要がある。
10月まで入っている。同じ資料に収録されている林業・木材製造業労働災害防止協会(以下、林災防)のページには、種類ごとの時期も載っている。いちばん危ないのは巣がいちばん大きくなって蜂の数が増える時期で、種類ごとにはスズメバチが7〜10月、アシナガバチが7〜8月、ミツバチは一年を通して危ないという。
ミツバチは一年中だ。「涼しくなったから虫の心配はない」とはならない。
そして、これは軽い話ではない。同じ資料によると、厚生労働省の人口動態統計では、年によって増減はあるものの、近年は全国で毎年20〜30人が蜂に刺されて亡くなっている。
この記事では、蜂の生態の一般論ではなく、キャンプ場でそのまま使える判断を、公的機関の資料の記述に沿って整理する。数値は出典のとおりに書き、表現は自分の言葉に置き換えて出所を示す。出典に書かれていないことは「書かれていない」と明記し、記事の側で足したものは「記事の側で足した」と明記する。
目次
秋も危険が続く理由
千葉県のスズメバチに関するページによると、夏から秋にかけてはスズメバチの巣が大きくなって数が増え、攻撃的になることもあるので、とくに注意が必要だという。
夏から秋にかけて——つまり、夏で終わりではなく秋まで続く、という書き方だ。
🔵 断っておくと、今回参照した資料は「秋のほうが夏より危険」とは書いていない。書かれているのは「7〜10月が危険」「夏から秋にかけて攻撃性が強くなることがある」までだ。この記事も、そこから先には踏み込まない。言えるのは「秋になっても終わっていない」ということである。
そして紅葉シーズンで山に入る人が増えるのが、まさにこの時期にあたる。
刺される前に:攻撃には段階がある
ここは知っておくと本当に役に立つ。林災防のページによれば、蜂は誰彼かまわず襲ってくるわけではなく、スズメバチの攻撃には4つの段階がある。資料の内容を、段階ごとに要約する。
- 巣に近づく人への警戒:巣の出入り口や表面の蜂が人や動物のほうをうかがい、一部は巣から離れてまわりを飛ぶ(🔵 資料のこの行は「人や動物を中止する」となっている。誤記と見て言い換えた)
- 巣に近づく人への威嚇:警戒していた蜂が高い羽音を立てて飛び回る。オオスズメバチは、あごを噛み合わせて空中でカチカチと音を鳴らす
- 巣に間接的な刺激を与えたときの攻撃:威嚇を無視したり気づかなかったりしたとき、巣に振動を与えたときなどに、巣の中から多くの蜂が飛び出してくる
- 巣に直接の刺激を与えたときの攻撃:巣を直接つついたり壊したりすると、入り口の蜂も巣の中の蜂も一気に飛び出し、まさに「ハチの巣をつついた」状態になる。激しく興奮すると、相手に噛みつき、何度も針を刺す
🔴 ④の最後を見落とさないでほしい。激しく興奮すると、噛みついて何度も針を刺す——1回刺されて終わり、ではないということだ。
③に進む引き金は、資料に並んでいる——威嚇を無視したとき、気づかなかったとき、巣に振動を与えたときなどだ。
🔵 ここは正確に読んでほしい。資料は引き金を挙げているだけで、「気づいて離れれば③には進まない」とは書いていない。実際、巣に振動を与えたかどうかは、威嚇に気づいたかどうかとは別だ。気づいて後退している最中に振動を与えれば③は起こりうる。最後の「など」も、これで全部ではないことを示している。
それでも近くで高い羽音がしつこく続くのは、無視してはいけない合図だとは言える。オオスズメバチならこれに「カチカチ」という音が加わる。
では気づいたらどうするか。ここは出典がはっきり書いている。林災防の「2.蜂の攻撃」の節は、冒頭に赤字で1行、行動を掲げている。蜂が寄ってきたら、すぐに危ない場所から離れる、というものだ。
鳥取労働局の対策3も同じで、作業中に蜂が寄ってきたら、すぐに離れるよう求めている。
🔴 「すぐに」だ。ゆっくりではない。
あわせて、刺激を与えないことも出典に書かれている(鳥取労働局 対策2)。巣が見つかったら振動などの刺激を与えないようにし、取り除くまでは巣の近くで作業しない、という内容だ。
🔵 ただし、この2つが指している場面は違う。「すぐに離れる」は蜂が寄ってきたときの指示、「振動などの刺激を与えない」は巣が見つかったときの指示だ。出典は、この2つを1つの動作としてどう組み合わせるかまでは書いていない。
🔴 迷ったら「すぐに離れる」を優先してほしい。出典が、蜂が寄ってきたという、まさにその場面について書いているのはこちらだからだ(🔵 この優先順位の付け方は書き手の判断で、出典に書かれているわけではない)。
🔴 逆に言えば、「カチカチが聞こえないから安全」ではない。資料でカチカチを出すと書かれているのはオオスズメバチだけだ。他の種は高い羽音のほうが手がかりになる。
逃げる距離の目安
資料によると、スズメバチが追ってくる距離は種類で違うものの、おおよそ10m〜50mだ。
50m。キャンプ場の感覚で言うと、区画をいくつも越える距離だ。「数歩下がった」では足りない。
刺されたときについても、資料は巣の近くで刺されたなら、すぐに巣から離れるよう、条件つきで強く呼びかけている。
理由も書かれている。1匹に刺されると、毒液(興奮物質)が空気中にまき散らされ、たくさんの蜂に襲われることがあり危険だという。
1匹目に刺された時点で、次が呼ばれている。その場で患部を見ている場合ではない、ということだ。
キャンプで効く「刺されない」条件
① 黒を着ない・匂いを付けない
鳥取労働局の対策では、蜂を刺激しない服装で作業するよう求め、スズメバチについては黒っぽい服や、香水・化粧品のように匂いのするものも避けるとしている。
林災防のページはもう少し具体的だ。
- スズメバチは黒い物にいちばん激しく反応して襲う。ミツバチは色にはあまり反応しない
- スズメバチが襲うのは服だけではなく、黒い長靴やカメラなども対象になる
- 蜂はヘアスプレー・ヘアトニック・香水などの化粧品や体臭に敏感で、とくにミツバチは、巣の近くかどうかにかかわらず化粧品の匂いで興奮することがある
黒い長靴、カメラまで挙がっている。キャンプなら黒いギア・黒いカメラ・黒い帽子が該当する。秋の山に入る日は、意識して明るい色を選びたい。
② 露出をなくす(狙われる場所が決まっている)
林災防によると、蜂は頭や顔を狙ってくるので防蜂網が役に立ち、とくに蜂アレルギーの人は必ずかぶり、防護手袋なども使う。刺されやすいのは腕や手、その次が顔や頭で、どれも肌が出ている所から先に狙われるという。
秋は日中まだ暖かく、半袖で過ごしたくなる。だが薪を拾いに林に入る、設営で藪際を歩く——そういう場面だけでも長袖と帽子にする価値がある。
③ 🔴 飲みかけの缶を放置しない
これはキャンプ特有で、しかも実際に事故になっている。林災防の資料によれば、外でジュースを飲むときも蜂に気をつける必要がある。飲み残しのジュースや水をえさにするスズメバチは多く、飲んでいる最中に寄ってきて缶の中に入り込み、口や唇を刺されることがあるという。
缶の中に入っているのだ。飲み口の見えない容器を、確認せずに口をつけない。蓋つきのボトルに移す、席を離れるときは口を塞ぐ。手間はほとんどかからない。
そして刺される場所が口や唇=顔である点が重い。後述するが、顔まわりを刺されたときはショック症状が出やすいとされている。
④ 巣を見つけたら、その日はそこを使わない
鳥取労働局の対策の1番目は、作業の前に、その場所に蜂がいるかを確かめること。2番目は前述のとおり、巣が見つかったら刺激せず、取り除くまで近くで作業しないことだ。
キャンプに置き換えるなら、設営前にサイトの周りを一周して、軒下・木の枝・地面の穴を見る。見つけたら自分で何とかしようとせず、管理棟に伝えてサイトを替えてもらう。攻撃の③にあるとおり、巣に振動を与えることが引き金になる。ペグを打つ振動も刺激になりうる。
🔴 刺されたとき
ここは順番を間違えると命に関わるので、資料がどう書いているかと、この記事が何を足したかを分けて書く。
まず、資料の構成を正確に書いておく
今回の資料には、刺された後の処置が2か所に載っている。
- 1ページ目(小野市消防本部のホームページから)……「〇」印の箇条書き。番号も条件も付いていない(🔵 ただし3つ目だけは、前の2つの処置をしたあとでという前後関係を持っている)
- 5〜6ページ目(林災防より)……刺されたときの処置として並んだ(1)〜(5)の番号付きリスト
🔴 この記事では、下で順序を組み替えている。並べ替えたのは記事の側であり、資料の順序ではない。組み替えた理由は、時間の制約がいちばん強いもの(119番通報)を最初に置くためだ。資料そのものの順序を知りたい場合は、必ず原典を見てほしい。
🔴 いちばん急ぐこと:ショック症状があれば119番
1ページ目の箇条書きによると、ショック症状(意識がもうろうとする、息が苦しい、血圧が下がる)があるときは一刻を争うので、すぐに119番に電話して救急車を呼ぶ。
この項目は他の処置と並列に置かれているが、時間の余裕がいちばん無いのはここだ。だからこの記事では先頭に置く。
あわせて、林災防の(4)にも早く受診すべきサインが示されている。はじめのうちに発疹、涙が出る、せき、嘔吐、下痢などが見られたら、できるだけ早く医師の手当てを受ける、というものだ。
1ページ目(小野市消防本部)の処置
以下は条件なしの並列で書かれているものだ。「ショック症状がない場合だけ」といった条件は資料には付いていない。
- 刺された所を水道水などの流れる水でよく洗い、手で毒液を絞り出す。水で洗うと、毒が薄まり、傷が冷える効果が見込める
- 刺された所に虫刺されの薬(抗ヒスタミン軟膏)を塗る。アンモニアはまったく効かない
- ここまでの手当てをしたら、できるだけ早く医師にみてもらう
🔴 アンモニアはまったく効かない——資料がはっきり否定している数少ない項目だ。
(なお「小便をかける」という言い伝えについては、今回の資料には一言も書かれていない。否定も肯定もされていないので、この記事では「公的資料が否定している」とは書かない。ただし資料が示している洗浄はきれいな水・流水であり、そこに尿は出てこない。)
5〜6ページ目(林災防)の(1)〜(5)
こちらは番号付きで、資料の順序は次のとおり(内容は要約)。
- 刺された場所から離れて、木陰や冷たい水が流れる沢のそばまで移り、刺された所をきれいな水で洗う
- 赤く腫れてきた所に抗ヒスタミン軟膏を塗る
- 手や足を刺されたときは、心臓に近い側を止血用のゴム管などで縛る。ただし数分おきにゆるめる
- はじめのうちに発疹・涙・せき・嘔吐・下痢などが出たら、できるだけ早く医師の手当てを受ける
- 刺された人を運ぶときは、決して背負わず、担架で救急車まで運ぶ
🔵 (3)について。これは林災防の資料に書かれている内容だが、止血帯を使う処置は判断の要る手当てだ。この記事では、これが現在の救急の指針とどう整合するかまでは確認していない。実際の場面では119番でつながった相手の指示に従ってほしい。
🔵 (5)について。資料はこの指示の理由を書いていない。この記事でも、もっともらしい理由を付けることはしない。覚えておくのは「背負わない・担架で」だけでいい。
🔴 アナフィラキシー:時間の感覚を持っておく
蜂刺されで命に関わるのは、ほとんどがこれだ。資料の説明をまとめると次のようになる。
- アナフィラキシーショックは、薬などへのアレルギー反応としてごく短い時間(数分〜30分以内)に起き、息が苦しくなる・血圧が下がるといった、命に関わる重い症状をともなう
- 蜂に刺されて亡くなる例は、ほとんどがこのショックによる血圧低下と、のど(上気道)のむくみによる呼吸困難が原因
- ショック症状は、顔を含む頭や首を刺されたときに起きやすく、刺されてから数分〜10数分というごく短い時間で現れる
- 症状の重さについては別の欄に、症状が出るまでの時間が短いほど危ないと添えられている
キャンプの文脈で読み替えると、こうなる。
- 顔・首を刺されたら、症状が出るのが早い可能性がある。様子を見ずに動く
- 勝負は数分〜30分。山間のキャンプ場は救急車の到着に時間がかかる。「様子を見る」判断が、そのまま時間を削る
- 症状の段階:軽症=蕁麻疹・体のだるさ・息苦しさ/中等症=喉が詰まったような感じ・胸苦しさ・口の渇き・腹痛・下痢・嘔吐・頭痛・めまい/重症=意識がもうろう・痙攣・意識消失・血圧の低下。資料は、アナフィラキシーショックで亡くなることがあると書いている
アレルギーの診断を受けている人向けには自己注射器(アドレナリン自己注射器・商品名 エピペン®)がある。資料でもアナフィラキシーショックの「補助治療剤」として紹介されているもので、医師の判断によるものだ。心当たりのある人はキャンプシーズンの前に主治医に相談しておくのが筋だ。この記事で使い方を説明することはしない。
秋キャンプ前のチェックリスト
- □ その日に着るものに黒が多くないか。帽子・長靴・カメラも黒くないか
- □ ヘアスプレー・香水・匂いの強いものを付けていないか
- □ 林や藪に入る予定があるなら長袖・長ズボンを持ったか
- □ 設営前にサイトの周りを一周して、軒下・枝・地面の穴を見たか
- □ 飲み物を蓋つきの容器にしたか。飲みかけの缶を放置していないか
- □ 同行者に蜂アレルギーの人がいないかを確認したか
- □ キャンプ場の住所と最寄りの救急医療機関を、圏外でも見られる形で控えたか
まとめ
- スズメバチの危険な時期は7〜10月。ミツバチは一年中危険とされている。死者は全国で毎年20〜30人
- 攻撃は4段階。③の引き金は「威嚇を無視/気づかない/巣に振動を与えたとき等」。出典の指示は蜂が寄ってきたら、すぐに危ない場所から離れること。巣を見つけている場合は振動などの刺激を与えないことも加わる(🔵 資料は「気づけば進まない」とは書いていない)
- カチカチという音を出すと書かれているのはオオスズメバチだけ。聞こえないから安全ではない
- 🔴 激しく興奮すると噛みついて何度も刺す。1回刺されて終わりではない
- 逃げる距離は10〜50mを目安に
- 黒は衣類だけでなく長靴・カメラも。匂いの強いものも避ける
- 🔴 飲みかけの缶にもぐり込む。口や唇を刺される事故がある
- 🔴 ショック症状(意識がもうろう・呼吸困難・血圧の低下)があれば、すぐに119番
- 処置は離れる/きれいな水で洗う・毒液を絞り出す/抗ヒスタミン軟膏/速やかに受診。アンモニアは全く効果がない
- 移送は決して背負わず担架で
- アナフィラキシーは数分〜30分。顔・頸部なら数分〜10数分で出ることがある
秋の山は本当に気持ちがいい。だからこそ、この1つだけは荷物と一緒に頭に入れて出かけてほしい。なお、虫除けスプレーのディートとイカリジンの違いで扱っている虫よけは、承認されている適用害虫が蚊・ブユ・アブ・マダニなどで、ハチは入っていない(🔵 出典はハチへの効き目について何も書いていない)。持ち物そのものの抜けが心配なら、ファミリーキャンプの持ち物チェックリストもあわせてどうぞ。
参考にした情報源
- 厚生労働省 鳥取労働局|蜂刺され災害を防ごう(PDF)
🔵 この資料は複数の出典をまとめたものです。本記事が引用した箇所の出所は次のとおり。
鳥取労働局=冒頭の「危険な時期は7月〜10月」、労働災害防止対策のうち本記事が引用した1・2・3・4。
1ページ目(小野市消防本部のホームページから)=刺された時の処置(〇印の並列)、追跡距離、症状の段階、アナフィラキシーの説明。
🔵 ただしアナフィラキシーの囲みだけは、資料の中に出所の表示が無い。
3ページ目以降(林業・木材製造業労働災害防止協会のホームページから)=種類と危険な時期、攻撃の4段階、黒い物・長靴・カメラ・化粧品、飲料の缶、狙われる部位と防蜂網、処置(1)〜(5)、自己注射器と年間20〜30人の死者。 - 千葉県|スズメバチにご注意を(夏から秋は巣が大きくなりハチの数が多く、攻撃性が強くなることがあること)

