「冬のソロキャンプ、この装備で何度までいけるんだ?」——道具を一式そろえたあと、みんなここで止まる。
先に結論から言う。見るべき数字は2つだ。
- 寝袋の「快適温度」……「下限温度」でも「限界温度」でもない。ここを取り違えると寒い夜が確定する
- マットのR値……寝袋がどれだけ良くても、ここが低いと下から冷える
そして3つ目に、その2つを「何度」に合わせるか。
この記事は「おすすめ寝袋10選」ではない。手持ちの装備が何度まで通用するかを、自分で判断できるようになるための記事だ。数字はすべてメーカーと気象庁の記述から引き、出典に書かれていないことは「書かれていない」と明記する。
目次
寝袋には温度が複数 書いてある。どれを見るかで結果が変わる
冬用寝袋のスペック表を見ると、温度が2つ、あるいは3つ並んでいる。
🔴 まず知っておくべきなのは、この表記に統一の義務がないことだ。DODは公式ジャーナルではっきり書いている。
温度域表記については義務ではないため、製品やメーカーによっては独自の基準や表記を採用していることもあります。
つまり「-10℃」という数字だけを見ても、それが何の温度なのか分からない。だから確認すべきは数字ではなく、その数字がどの区分かになる。
3つの温度の意味
DODの定義はこうだ。
- 快適温度:一般的にユーザーが快適に眠ることができるとされる温度域
- 下限温度:衣服の調整などで快適に眠ることができるとされる温度域
- 限界温度:内部で丸まった状態で最長6時間耐えられるとされる温度域。この温度域で使用の場合、低体温症など健康上の問題が発生し、最悪の場合死に至るおそれがあります
ここは丁寧に読んでほしい。「丸まって耐える」のは限界温度のほうで、下限温度は「衣服の調整などで快適に眠れる」とされている。この2つを混ぜると判断を誤る。
モンベルは2つの区分を使っていて、公式ページの定義はこうだ。
- 快適温度:一般的に代謝が低く、寒さに対する耐性が低い人が、リラックスした体勢で寒さを感じることなく睡眠ができるとされる温度
- 使用可能温度:一般的に代謝が高く、寒さに対する耐性が高い人が、寝袋のなかで丸まった状態で寒さを感じることなく睡眠ができるとされる温度
どちらも頭に「一般的に」が付いている。個人差がある前提の数字だということだ。
だから「快適温度」で選ぶ
メーカー自身がどちらを基準にしろと言っているかが、いちばん確かな答えになる。
- モンベル:「使用温度の目安はスリーピングバッグ各モデルの『快適温度』を基準にしています」
- DOD:「ゆえに混乱しがちなのですが、日本でオートキャンプを行う際に見てほしいのは「快適温度」」
2社とも同じ結論だ。快適温度で選ぶ。これが1つ目の数字になる。
なお温度表記の測定方法について、モンベルは「ISO(国際標準化機構)で定められたテスト方法で測定しています」と書いている。ただし規格番号までは公表されていないので、この記事でも番号は書かない。そして「対応温度域(使用温度の目安)はISOテストに基づく試験結果であり、個人の体感温度とは異なることがあります」という注記も添えられている。
🔵 もう1つ、正確に書いておく。モンベルは「限界温度」という値を公表していない(快適温度と使用可能温度の2つ)。同社のページにある「危険温度域」は温度表に付いた帯(ゾーンの名前)であって、限界温度という数値ではない。ただし方針は明確で、「モンベルでは危険温度域での使用を推奨していません」と書かれている。カタログの一番低い数字を、自分の装備の実力だと考えないこと。
寝袋が良くても寒い。原因は地面のほうにある
「そこそこ良い寝袋を買ったのに、背中だけ冷たくて眠れなかった」——冬キャンプでよく聞くつまずきがこれだ。
理由ははっきりしている。NEMOがこう書いている。
シュラフの下側の断熱材は寝ている人の体重や湿気で押し潰されると断熱効果が大きく低下します。
ダウンも化繊も、空気を含んでふくらむことで暖かい。押し潰されれば、その効果は大きく落ちる。
モンベルもスリーピングパッドのページで、パッドの役割を「断熱性」と「クッション性」だとし、「断熱性が低いと冷えで深く眠れなかったりします」と書いている。
R値とは何を測った数字か
R値はASTM F3340という米国の規格で測る。モンベルの説明はこうだ。
R値(熱抵抗値)は、ASTM F3340-18に基づくスリーピングパッドの断熱性を表す指標です。数値が高いほど断熱性が高いことを示しています。R値はパッドを選択する際の目安としてください。
測り方は、この規格の策定に関わったNEMO(同社は「他の主要アウトドアブランドと共に2019年秋に承認された新しいASTM規格の試験方法の開発で主導的な役割を果たしました」と書いている)が公式ジャーナルで公開している。
ASTM規格のR値の測定方法:地面を模した冷たいプレート(5℃)と人体を模した暖かいプレート(35℃)でマットを挟み、上から荷重をかけることでマットの上に人が寝ているような状態を再現します。
ポイントは「荷重をかけることで」のところだ。人が乗って潰れた状態で測っている。つまりR値は、実際に寝たときの断熱性に近い数字になっている。
R値の数字だけで季節を決めない ── メーカーは2軸で分けている
ネット上には「R値1〜2=夏/2〜4=3シーズン/4〜6=冬」という季節別の目安が出回っている。この記事では、その目安の出所を確かめられなかったので、出典として示せない。代わりに、メーカーが実際に自社製品に付けている表示を見る。
モンベルのスリーピングパッド一覧に載っている10モデルの、R値と推奨シーズンはこうなっている(同ページの表より)。
| モデル | R値 | 推奨シーズン | 用途の帯 |
|---|---|---|---|
| キャンプパッド100 | R8.1 | オールシーズン | キャンプ向け |
| キャンプパッド50 | R6.5 | オールシーズン | キャンプ向け |
| キャンプパッド38 | R4.9 | オールシーズン | 両方 |
| U.L.サーモ エアパッド | R4.9 | オールシーズン | トレッキング向け |
| アルパインパッド25 | R3.2 | オールシーズン | トレッキング向け |
| フォームパッド 25 | R2.3 | 3シーズン | トレッキング向け |
| マルチ フォームパッド | R2.1/1.4 | 3シーズン | 両方 |
| フォームパッド 16 | R1.5 | 3シーズン | トレッキング向け |
| エアパッド | R1.4 | 3シーズン | トレッキング向け |
| タタミパッド | R0.7 | 3シーズン | トレッキング向け |
読み取れることは2つある。
① 「オールシーズン」と「3シーズン」の境目は、R2.3 と R3.2 のあいだにある。R1.4やR1.5は「夏専用」ではなく「3シーズン」に分類されている。
② ただし、モンベルはR値だけで分けていない。同じページの表には、シーズンとは別に「トレッキング向け」「キャンプ向け」の2本の帯が付いている。🔵 この2つは排他ではなく、どちらの帯にも入るモデルがある(キャンプパッド38とマルチ フォームパッドがそれだ)。ページ本文の説明はこうだ。
トレッキング向けモデルは、軽量コンパクト性と快適性を両立できるよう、幅を約50㎝に設定。頭回り、足先などを必要最小限の幅にカットし、軽量化を追及しています。ワイドサイズやキャンプ向けモデルは、幅を60㎝以上に設定。
ここが効いてくる。オールシーズンのなかで最もR値が低い アルパインパッド25(R3.2)は、「トレッキング向け」の帯にだけ入っている。特徴欄も「携行性と快適性を両立/フォーム入りエアパッド」——つまり担いで歩くことを前提に、軽さと引き換えに成立しているモデルだ。
いっぽう「キャンプ向け」の帯に入っているのは、キャンプパッド38(R4.9)・50(R6.5)・100(R8.1)・マルチ フォームパッド(R2.1/1.4)の4モデル。このうち「オールシーズン」とされているのは キャンプパッド38・50・100 の3本で、いずれも R4.9 以上だ(マルチ フォームパッドは3シーズン)。
🔵 誤解のないように書いておく。「冬季にも活躍するエアパッド」という説明が付いているのはU.L.サーモ エアパッド(R4.9)のほうであって、R3.2のアルパインパッド25ではない。
だから、ソロキャンプでの読み方はこうなる
- 荷物を担がないオートキャンプなら……モンベルが「キャンプ向け」かつ「オールシーズン」に置いているのはR4.9以上の3モデルだ。数字に余裕を取る側に倒してよい
- 担いで歩くなら……軽量性とのトレードオフになる。トレッキング向けの帯にはR3.2でオールシーズンとされるモデルもあるが、それは軽さのために切り詰めた設計だと理解したうえで選ぶ
モンベル自身も「R値はパッドを選択する際の目安としてください」と書いているし、「厚みがあるものが一概に断熱性が高いというわけではありません」とも書いている。数字は入口であって、答えではない。
R値は足し算できる
冬用マットを買い足す前に知っておいてほしいのが、R値は加算できるという点だ。NEMOはこう書いている。
R値は加算式なので、2つのマットを重ねて使うとそのR値を増やすことができます。
同ページには、R2.8のマットとR2.0のマットを重ねると「R値4.8のマットと同等の断熱性を持ち、冬にも快適に眠れます」という具体例も載っている。
つまりいま持っている3シーズン用マット+クローズドセルマットという組み合わせで、数字を上げられる。手持ちのマットのR値を調べて、足りない分だけ足す。買い直すより安く済む方法だ。
ただしNEMOは、同じページでこうも書いている。
マットの選択においてR値はとても重要な要素ですが、この試験ではマットの寝心地や寝返りをする際の静寂性、肌触り、セットアップ・収納のしやすさなどフィールドで実際に使用する時の快適性までは図れません。
R値は暖かさの指標であって、快適さの指標ではない。重ねれば寝心地は変わるし、荷物も増える。ソロなら特に、そこは自分の運搬手段と相談だ。
「何度に合わせるか」——予報の最低気温をどう読むか
快適温度もR値も、「何℃を想定するか」が決まって初めて意味を持つ。
予報の「最低気温」がいつの値かを知っておく
気象庁の予報用語(気温、湿度)では、最低気温は「通常は日最低(最高)気温のこと(日界は0時)」とされ、例として「明日朝の最低気温(明日0時から9時までの最低気温)」が挙げられている。
キャンプで一番冷える夜明け前は、この0時〜9時の中に入っている。だから予報の最低気温は、的外れな数字ではない。
🔵 ただし同じページには、「新聞等では…最低気温は前日21時〜当日9時を対象とした値を掲載していることが多く」という趣旨の注記もある。どの時間帯を指した値かは、発表元によって違うことがあるので、そこは頭に入れておきたい。
放射冷却で下がる
気象庁は放射冷却を、こう定義している。
地表面の熱が放射によって奪われ気温が下がること
🔵 正直に書いておく。「晴れて風の弱い夜に強まる」「盆地は冷気が溜まる」といった説明は気象学では標準的だが、今回リンクした気象庁の用語ページには書かれていない。この記事では、出典で確認できた定義までにとどめる。
それでも実務上の含意ははっきりしている。あなたが張るテントは、アメダスの観測地点にはない。予報の値をそのまま自分の寝床の温度だと考えないほうがいい。
結論:装備側に余裕を取る
何℃分の余裕を取るべきかについて、一律の数字は出せない。ここで「◯℃引けばいい」と断言する記事があったら疑ったほうがいい。
参考になる言い方として、DODは「一般的にはこの『快適温度』プラス5度の外気温なら問題ないと言われています」と紹介している。DODが自社基準として定めたものではなく、「一般的には…と言われています」という伝聞の形で書かれている点は、そのまま受け取ってほしい。
実務的にはこうなる。
- 行く場所・日付の予報の最低気温を調べる
- その値がどの時間帯のものかを確認し、現地は予報どおりとは限らないと考える
- その想定気温に対して、寝袋の快適温度で足りるかを見る
- マットはR値の数字だけでなく、メーカーの推奨シーズンを見る。足りなければ重ねて足す
ソロだからこそ効いてくること
テントの中が暖まらない
人間そのものが熱源だ。グループなら複数人ぶんの体温がテント内にこもるが、ソロは1人ぶんしかない。同じテント・同じ気温でも、ソロのほうが内部は冷える側に働くと考えられる(🔵 これは今回の出典には無い、書き手の理屈だ)。小さめのテントが冬のソロで好まれるのも、暖める空間が小さいほうが有利という同じ理屈になる。
失敗したときに代わりがいない
寝袋が想定より寒かったとき、グループなら「予備を借りる」「車に避難する」といった選択肢を誰かが持っていることがある。ソロは全部 自分の荷物の中だけで解決するしかない。だからこそ、装備の数字は余裕側に倒す。
撤収も1人
冬の朝は、テントもマットも結露と霜で濡れる。それを1人でたたむ。手がかじかんだ状態での作業時間まで含めて、その日の装備を考えておきたい。温度の数字には出てこないが、冬ソロの体力を削る部分だ。
数字が足りないときに、あとから足せるもの
- マットを重ねる……前述のとおりR値は加算式。クローズドセルマットを下に敷き足す方法がある
- 湯たんぽを入れる……寝袋内に持ち込める熱源。低温やけどを避けるため、必ずカバーや布で包んで使う(🔵 これは今回の出典には無い、一般に言われている注意だ。製品の取扱説明書に従ってほしい)
- 着るものを増やす……ただし着込みすぎは逆効果になることがある、とよく言われる(🔵 これは今回の出典には書かれていない一般論だ)。寝袋は中の空気を体温で暖めて保温する仕組みなので、締めつけるほど着るのは理屈に合わない
- インナーシュラフ・寝袋用ライナーを足す……寝袋の内側に1枚 足して保温を底上げする方法
🔴 テント内の暖房について
「石油ストーブやガスストーブをテント内で使えばいいのでは」と考える人は多い。燃焼式の暖房器具には一酸化炭素中毒の危険があるということだけ、はっきり書いておく。一酸化炭素は無色・無臭で、発生していることに自分では気づけない。
換気の具体的なやり方と、警報器をどこまで信じてよいかについては、キャンプの一酸化炭素中毒対策|換気の正しいやり方と、警報器に頼りきってはいけない理由で一次情報をもとに詳しく書いた。テント内で火を使う予定があるなら、そちらを先に読んでほしい。
本記事では具体的な機種の推奨はしない。「寝袋とマットの数字で足りる範囲に、行く日を合わせる」ほうが、ソロでは安全だからだ。装備の数字で足りない夜は、行かないという判断も装備のうちだ。
まとめ
- 寝袋は「快適温度」で見る。下限温度・限界温度は選定基準にしない(メーカー2社とも快適温度を基準にしろと書いている)。「丸まって耐える」のは限界温度のほう
- 温度表記には統一の義務がない。数字より「その数字がどの区分か」を確認する
- マットのR値は、数字だけで季節を決めない。モンベルは「オールシーズン/3シーズン」に加えて「トレッキング向け/キャンプ向け」でも分けており、キャンプパッドを名乗る3モデルはいずれもR4.9以上。担がないなら数字に余裕を取る
- R値は加算できる。足りなければ重ねて足せる
- 合わせる気温は、予報をそのまま自分の寝床の温度だと考えない
数字で装備を組めるようになると、冬のソロは一気に楽しくなる。静かで、虫もいなくて、空気が澄んでいる季節だ。ちゃんと準備して、いい夜を過ごしてくれ。
参考にした情報源
- モンベル|モンベルのスリーピングバッグ(快適温度・使用可能温度の定義、快適温度を基準にすること、ISOで定められたテスト方法、個人の体感温度とは異なることがある旨、危険温度域での使用を推奨しないこと)
- モンベル|スリーピングパッドの選び方(R値=ASTM F3340-18に基づく指標、R値は目安、厚みと断熱性は一概に比例しないこと、各モデルのR値・推奨シーズン・特徴、トレッキング向けとキャンプ向けの幅の設定)
- DOD JOURNAL|自分に合った寝袋選びのポイント(快適温度・下限温度・限界温度の定義、温度域表記は義務ではなく独自基準もあること、日本でオートキャンプを行う際に見てほしいのは快適温度、「一般的には快適温度プラス5度の外気温なら問題ないと言われています」)
- NEMO Equipment Japan|NEMOのR値(ASTM F3340)への関わりとアプローチ(測定方法5℃/35℃・荷重、R値は加算式、R値では図れないもの)
- 気象庁|予報用語(気温、湿度)(最低気温=日最低気温、明日朝の最低気温は0時〜9時の最低値、放射冷却の定義)


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