雨あがりのキャンプ場で、車のタイヤが土に沈んで動かなくなる。撤収の朝にこれが起きると、その日の予定はまるごと消える。
先に、この記事の結論を3つ。
- アクセルを踏み込まない。タイヤを空回りさせるほど、車は自分の足元を掘り下げていく
- 自力で無理だと分かったら、救援を呼ぶ前にキャンプ場の管理者へ一報を入れる。作業する場所を管理している人の了解が取れていない場合、JAFは作業をしないと約款に書かれている
- JAF会員でも、無料になるのは決められた範囲までだ。引き出してもらうのがタダで終わるとは限らないので、費用が出るかは電話の段階で聞く
ここから先は、日本自動車連盟(JAF)が公開している対処ページ・利用約款・料金表・救援件数のデータを土台に、現場で必要になる順に並べていく(最後の1節だけは、はまる前の話だ)。動画でよく見る「駆動輪のまわりに板やマットを差し込む」「別の車にロープで引いてもらう」といった手は、この記事が根拠にしたJAFのページには出てこないので、手順としては扱わない。出典のない話をする箇所には、主なものに「これは出典に無い」と書き添えてある。
目次
JAFの言葉では「スタック」にあたる
電話をかける前に、言葉をひとつ合わせておくと話が早く進む。
JAFのロードサービス利用約款には、現場でやる作業の種類が並んでいる。そのなかに「スタック」の引き出し作業という項目があり、積雪した路面・砂浜・そのほかの場所で自力では脱出できなくなった状態、と括弧書きで説明されている。JAFが「ぬかるみはスタックです」と名指ししているわけではないが、雨あがりの土に沈んで動けない状態は、この「そのほかの場所」の側だと読むのが自然だろう。
紛らわしいのは、同じ並びに「落輪・落ち込み時の救援作業」という別の項目があることだ。約款に書かれているのは項目名だけで、こちらには括弧書きの説明が付いていない。名前からすれば側溝への脱輪や段差からの落ち込みを指すのだろうが、そこは書かれていないので断定はできない。はっきりしているのは、JAF自身がこの2つを別の作業として書き分けているということだ。
この違いは、統計の読み方にも効く。JAFが毎年公表している救援データのうち、2025年度(2025年4月〜2026年3月)の四輪車・一般道路の集計を見ると、上位10項目に載っているのは「落輪・落込」のほうで、124,329件、4番目に多い理由になっている。一方でスタックは、この上位10項目には単独では出てこない。つまり「ぬかるみで動けなくなる人が年に何件いるか」は、この記事が根拠にした資料からは分からない。
ここで押さえておきたいのは件数のほうではない。JAFが「受付ではこう言ってください」と案内しているわけではないが、約款が2つを書き分けている以上、電話では「落輪」ではなく「スタックして自力で出られない」と伝えたほうが、行き違いが少ないはずだ。
出典:JAF「ロードサービス利用約款」第5条/JAF「ロードサービス救援データ(2025年度:年間)」/内訳はJAFのPDF「JAFロードサービス 主な出動理由TOP10 2025年度 年間『四輪』」。
最初にやること ── アクセルを踏み込まない
はまったときにいちばんやりがちなのが、強く踏んで一気に抜け出そうとすることだ。これは逆に働く。タイヤが空回りすると、その場の土を削り取って穴を深くしていくので、さっきより出にくい状態になる。
JAFが案内している動かし方は、これとは反対だ。発進のときはアクセルを静かに踏む。そして前へ少し、後ろへ少し、と小さな往復を重ねていく。JAFはこの動きを振り子にたとえている。ゆっくり踏むのは、空回りで足元を掘り下げるのを避けるためだと説明されている。
操作の感覚としては、こう考えると分かりやすい(ここはJAFの説明ではなく、書き手の言いかえだ)。少し動いたら、その幅を次の一往復で広げる。踏み込んで一気に、ではなく、動ける幅を少しずつ広げていく作業だと思って手を動かす。
それでも動かない状態になったら、JAFのページには救援を要請してほしいと書かれている。粘る時間の目安までは示されていない。ここから先は出典のない判断になるが、往復させても幅が広がらない、あるいは車体が沈んでいくなら、そこが切り替えどきだと思っていい。
車の設定を変えると出られることがある
JAFは、同じページの補足として車両側の設定にも触れている。挙げられているのは次の3つだ。
- トラクションコントロール(TRC)を切る
- スノーモードに切り替える
- 2速発進を使う
それぞれが何をする機能なのかは、JAFのページには書かれていない。ここは出典に無い一般論として書くが、トラクションコントロールはタイヤが滑ったのを検知して駆動力を落とす仕組みとされている。普段は安全側に働く制御だが、はまった場面では欲しい回転まで削られることがあるので、切るという話になる。残る2つは逆で、発進時の駆動力を穏やかにして空回りしにくくするために、こちらから入れにいくほうの操作だ(2速発進は、モードではなく手動の変速操作である車も多い)。切るものが1つ、入れるものが2つ、と整理しておくと現場で混ざらない。
ただし、どのボタンでどう切り替わるか、そもそも自分の車にその機能があるかは車種ごとに違う。JAF自身も、詳しくは取扱説明書を見てほしいという書き方をしている。現場で説明書を探すことになると時間を食うので、車中泊も含めて車で寝るスタイルの人は、出発前に自分の車の該当ページを開いておくといい。車中泊キャンプの準備をまとめた記事で持ち物を確認するときに、あわせて見ておく項目に入れておきたい。
そして、出られたら元に戻す。これもJAFのページに書かれていることではないが、トラクションコントロールを切ったままにしておくと、濡れた路面で発進したり加速したりするときに効くはずの制御が働かない。切ったなら、平らな場所に出た時点で戻しておく。
出典:JAF「ぬかるみにはまって抜け出せない場合の対処方法」。
板やマットを噛ませる方法について
ネットの動画や解説では、駆動輪の前後にフロアマットや板を差し込む方法がよく紹介されている。ただ、上に挙げたJAFのページに書かれているのは踏み方と車両側の設定までで、この方法は載っていない。効かないという意味ではなく、この記事が根拠にしている資料の範囲には無いということだ。JAFが他のページや冊子でどう書いているかまでは確かめていない。ここでは、裏の取れる話と取れない話を混ぜないために、手順としては扱わない。
電話をかける前に、キャンプ場の管理者へ
ここがキャンプ場ならではの注意点になる。JAFのロードサービス利用約款には、救援を実施しない場合が条文で並べられている。そのなかに、作業をする場所の土地や施設を管理している人の了解が得られていないときが挙げられている。
キャンプ場は、民営でも公営でも、たいてい誰かが管理している場所だ。だから救援を呼ぶ前に、まず管理棟へ行く。順番としてはこうなる。
- 管理棟(または管理人の連絡先)に、どの区画で何が起きているかを伝える
- そのうえで救援を要請する
ここに1点、約款には書かれていないことを足しておく。管理棟に伝えるときに作業車を入れてよいか、入れるならどの経路かまで聞いておくと、あとが早い。区画のなかで沈んだ車を作業車で引き上げるとなれば、地面も芝も傷むからだ。管理人が常駐していないタイプの場所では、連絡先がどこに書いてあるかを、はまる前に見ておくことになる。
同じ約款には、利用時のお願いとしても、第三者が管理する場所で作業するときは関係者に連絡して承諾を得ておいてほしい、という趣旨の項目がある。順番を逆にすると、サービスカーが着いてから話が止まる。
約款はもう一か所、場所そのものを理由に実施が難しい場合も挙げている。入ってはいけない区域、一般の車が通れない場所、入ること自体に危険が見込まれる場所。加えて、雪がかき出されていない、あるいは水に浸かっているといった事情で車の運行が難しくなっている地域も並んでいる。大雨のあとの河原沿いのサイトや、細い林道の先にあるサイトは、この記述が現実味を帯びる場所だと考えておきたい。
会員でも、無料になるのは決められた範囲まで
JAF会員なら全部無料、という理解でいると、現場で驚くことになる。料金表(2024年4月1日改正)を読むと、無料になる範囲は決まっていて、その外側は負担が発生する仕組みだ。一般道路(駐車場や自宅を含む)の場合を整理すると、こうなる。
| 項目 | 会員 | 入会していない人 |
|---|---|---|
| 基本料 | 無料(会員証の提示が必要) | 8時〜20時は15,700円/20時〜8時は19,630円(税込) |
| 作業料 | 工数0.5までは無料。工数が決められていない作業なら、30分以内の作業まで無料 | 作業工数表による |
| けん引料 | 20kmまで無料。超過分は1kmごとに830円(税込) | 1kmごとに830円(税込) |
| 部品・油脂・燃料代 | 実費 | 実費 |
会員側の欄をよく見てほしい。無料なのは工数0.5までであって、作業そのものではない。約款のほうにも、会員は一定の範囲までが無料で、これを超える場合は有料になると書かれている。同じ料金表には「ロードサービス作業工数表(作業料金算出表)」が載っていて、工数1.0が作業1時間にあたる単位だと添えられている。料金表の会員欄に単価まで書いてあるわけではないので、超えた分がこの表で計算されるかどうかは断定しない。ただ、金額の目盛りを知りたければ見るのはこの表になる。
もうひとつ、料金表の下に添えられた注記を見ておきたい。会員の無料範囲を超えた作業について、一部または全部を負担してもらう場合があるとして、落輪や転落した車の引き上げ作業が例に挙げられている。ここで名指しされているのは落輪・転落のほうで、スタックの引き出しは挙がっていない。だから「スタックなら必ず有料」とも「必ず無料」とも読めない。読み取れるのは、車を引き上げる類の作業には有料になりうる例が実際にある、というところまでだ。
実際にいくらになるかは、沈み方・地面の状態・必要な機材・作業時間で変わる。工数表は単価の目盛りであって、あなたの現場の見積もりではない。だから金額の話は、電話で受け付けてもらう段階で確認するのが早い。「会員だが、ぬかるみにスタックして自力で出られない。費用は発生するか」と聞けばいい。その場で金額まで確定させてもらえるとは限らないが、有料になりうるかどうかを先に知っておけば、あとで驚かずに済む。
出典:JAF「ロードサービス料金表・作業工数表」/JAF「ロードサービス利用約款」第13条。
車両重量3000kgを超える車は、そもそも対象が違う
キャンピングカーで行く人には、料金より先に効く条件がある。JAFが救援を引き受ける範囲は、重さで線が引かれている。車両重量3000kg以下まで。積める量でいうと、最大積載量2000kg以下まで。この枠に入る自動車とバイクが対象だ、と案内されている。車両重量3000kgを超えるバスやトラックについては、燃料切れとキー閉じこみだけが対象になる。自分の車がどちら側かは、車検証の車両重量を見れば分かる。出発前に一度は確かめておきたい。
出典:JAF「ロードサービスご利用時の確認事項」(対象車種)。
どこにかけて、何を伝えるか
JAFの救援受付は年中無休・24時間で、電話番号は次のとおり。
- ナビダイヤル 0570-00-8139
- 短縮ダイヤル #8139
どちらも通話料がかかる。JAFはこのほかにスマートフォンアプリと救援要請ウェブサイトも用意していて、大雨や大雪、災害などで要請が集中して電話がつながりにくいときは、そちらを使ってほしいという案内を出している。ぬかるみで動けなくなるのは、たいてい雨が降ったあとだ。同じ地域の要請が重なりやすい状況なので、電話が混んでいたらアプリやウェブに切り替える、と決めておくといい。あわせて、要請が急増したときは到着までに時間がかかることがあるとも書かれている。
受付で聞かれることは、JAFが事前に公開している。挙がっているのは次の4つだ。
- どんな車か(車名・ナンバー・ボディカラー)
- どんなトラブルか(状況と、対応してほしい内容を詳しく)
- 車がどこにあるか(地名・住所・目印)
- 会員証を持っているか(会員番号)
ここからは、この4つをキャンプ場に当てはめたときの話になる。「どんなトラブルか」は、スタックして自力で出られないことに加えて、どのタイヤがどれくらい沈んでいるか、車が傾いていないかまで言えると伝わりやすい。場所のほうは、キャンプ場だと住所だけでは絞りきれないことがある。施設名と区画番号、それに管理棟からの位置を言えるようにしておくと、サービスカーが迷わない。
出典:JAF「電話・FAXで呼ぶ」/JAF「ロードサービスご利用時の確認事項」。
はまる前にできること ── 車の置き方
ここまでは、はまったあとの話だった。最後に、そもそもの置き方を短く。この節にはJAFの資料の裏付けが無い。ここまでと違って一般論なので、そのつもりで読んでほしい。
雨が予想される日に効くのは、区画のなかで車をどこに置くかを決めるときの目の使い方だ。地面が土だけの区画では、水は低いほうへ集まる。テントの位置は日当たりや眺めで決めるとしても、車だけは「雨が集まらない側」「出口へまっすぐ出られる向き」に置いておくと、撤収の朝に取れる選択肢が増える。切り返しが要る向きに停めていると、それだけで空回りの回数が増える。
設営してから雨が来たときは、区画のなかで車を動かすかどうかを、地面がぬかるみきる前に決める。地面が緩んでからの移動は、はまるきっかけそのものになりやすい。
雨の日のサイト選びやテント側の対策は、この記事では扱わない。役割を分けていて、キャンプの雨対策をまとめた記事が水はけのよい区画の選び方まで、この記事は車が動かなくなったあとの手順を受け持っている。地面が緩んだあとの撤収ではペグが抜けなくなることもあるので、あわせて読んでおくと朝が短くなる。
まとめ
- 踏み込まない。静かに踏んで、前後の小さな往復で助走の幅を広げる(JAF)
- 往復しても幅が広がらないなら、そこで自力をやめる(出典に目安は無い。切り替えどきの目安としての判断)
- 救援を呼ぶ前に管理棟へ。場所の管理者の了解が無いとき、JAFは作業しないと約款にある
- 約款は「スタック」と「落輪」を別の作業として書き分けている。電話では「スタックして自力で出られない」と伝えるほうが行き違いが少ないはず(JAFが言い方を案内しているわけではない)
- 費用は電話の段階で確認する。会員が無料なのは決められた範囲までで、その外は有料になると約款にある
- 車両重量3000kgを超えると、JAFの対象車種から外れる(3000kg超のバス・トラックは燃料切れとキー閉じこみのみ)
- 雨の予報の日は、車だけでも出口へまっすぐ出られる向きに置いておく(出典のない一般論)
キャンプ場でのトラブルは、慌てて力を入れた側から事態が悪くなる。動かなくなった時点で、手より先に情報を集めたほうが早く帰れる。
参考にした情報源
- JAF|ぬかるみにはまって抜け出せない場合の対処方法
- JAF|ロードサービス利用約款
- JAF|ロードサービス料金表・作業工数表
- JAF|ロードサービス救援データ(2025年度:年間)
- JAF|JAFロードサービス 主な出動理由TOP10 2025年度 年間「四輪」(PDF)
- JAF|電話・FAXで呼ぶ
- JAF|ロードサービスご利用時の確認事項


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