湯たんぽは、テント内で火を燃やさずに済む数少ない熱源だ。冬キャンプで薦められるのには、ちゃんと理由がある。ただ、その薦め方でいちばんよく出てくる「寝袋に入れて朝まで」という使い方は、公的機関が低温やけどとして名指しで注意している形と、ほぼ同じ形をしている。
この記事で言いたいのは、次の3つだけだ。
- やけどになるかどうかを分けるのは温度そのものではなく、その温度に何時間くっついていたかのほう
- 公的資料が示す目安では、44℃という「気持ちいい」温度でも、3〜4時間以上 当たり続ければ起きうるとされている
- だから対策は「ぬるくする」ではなく、同じ場所に当て続けない・寝る前に寝具から出すという置き方の話になる
火の粉も一酸化炭素も出さない道具だ。危ないと騒ぐつもりはない。置き方を変えるだけで避けられる話なので、公的機関の資料とメーカーの案内だけを根拠に整理していく。
目次
低温やけどを決めるのは温度ではなく「温度 × 時間」
普通のやけどは、触れた瞬間に熱いと分かって手を引く。低温やけどでは、その反射が働かない。心地よいと感じる程度の温度でも、体の同じところが長時間 触れ続けていれば起きる、というのが公的資料の説明だ。製品評価技術基盤機構(NITE)は、熱くないと感じるぶんだけ傷がじっくり皮膚の内部まで及び、やけどの深さの分類でいうII度・III度に至ると説明している。NITEによれば、この分類はI度が表皮まで、II度が真皮まで、III度が皮下組織まで傷が及んだものを指す。
では、どのくらいの温度で、どのくらいの時間なのか。NITEが温熱器具の事故を扱った回に、温度ごとの目安が載っている。読みやすいよう、低いほうから並べ替えた。
| 皮膚に触れているものの温度 | やけどになるまでの目安 |
|---|---|
| 44℃ | 3〜4時間以上 |
| 45℃ | 1〜3時間 |
| 46℃ | 30分〜1時間ほど |
| 47℃ | 45分ほど |
| 50℃ | 2〜3分 |
数字の出どころはNITE 製品安全情報マガジン Vol.441「低温火傷による事故」で、同誌はこれを製品安全協会「製品と安全」第72号からの引用として示している。湯たんぽメーカーのタンゲ化学工業も同じ「製品と安全」第72号を出典として、44℃・46℃・50℃の3つを載せている。🔵 ただし44℃は、NITEが「3〜4時間以上」としているのに対し、タンゲの表記は「3時間から4時間」で「以上」が付かない。この記事の表はNITE側の表記に合わせている。
この表の怖さは、数℃ずれるだけで許される時間が桁で変わるところにある。50℃なら数分の話が、44℃では数時間になる。逆に言えば、44℃という「湯たんぽとしてはむしろぬるい」領域こそ、時間の管理を忘れやすい。
しかも、この表が下限というわけでもない。NITEは、便座の表面温度が37℃〜38℃程度だった温水洗浄便座の事例でも熱傷と診断されていることを挙げ、数時間 体を押しつけていたことや皮膚の個人差が影響した可能性を示している。表は安全ラインではなく、あくまで目安の入口だと思っておいたほうがいい。
寝袋の中は、その条件がそろってしまう場所だ
キャンプの湯たんぽが家の布団と違うのは、逃げ場の少なさだ。冬に使うことの多いマミー型は体に沿った形をしていて、中で大きく寝返りを打ちにくい(封筒型ならもう少し余裕はある)。足元に入れれば、たいていは足の甲かふくらはぎの同じ面に当たり続ける。しかも外は寒いので、多少熱くても離したくない。
ここに「眠っている」が重なる。眠ってしまえば、そろそろ熱いな、という判断は働かない。温度・接触時間・気づけないことの3つが、寝袋の中では放っておいてもそろう。
NITEが挙げている事例が、そのまま答えになっている。湯を入れて専用カバーで包んだ湯たんぽを布団に入れたまま眠り、左足に低温やけどを負ったというもので、III度の熱傷・全治2か月以上と診断されている。注目したいのはその先だ。同誌によれば、その製品は注ぎ口のキャップの上面にも、取扱説明書にも、専用カバーにも、ラベルにも、就寝前に布団から出すよう書かれていた。メーカーは製品そのものに書いていた。読まれないまま使われた、という話だ。
なお、この記事は「湯たんぽをどう使うか」の話に絞っている。そもそも何度の夜に、どの寝袋とマットで行くかという装備側の決め方は冬のソロキャンプは何度まで?寝袋の「快適温度」とマットのR値だけで決める方法にまとめてある。湯たんぽは足りない分を足す道具であって、装備の穴を埋める主役ではない。
やることは、置き方の3点だけ
難しいことは何もない。上の資料から引ける対策は、この3つに集約できる。
- 包む。ただし、包めば済むとは考えない。消費者庁はチラシのほうで、専用カバー(付属品でも市販品でもよい)を掛けたうえに、厚手のバスタオルなどを重ねることを挙げている。同時に、それで必ず防げるわけではなく、やけどになるまでの時間が長くなるだけだ、とも付け加えている。NITEも、厚手のタオルや専用カバーで包んでも低温やけどを負うことがあると書いている。包むのは時間を稼ぐ手であって、時間の管理を省く代わりにはならない。
- 同じ場所に当て続けない。同じチラシは、肌の一点にずっと当たったままにならないよう、ときどき湯たんぽの位置をずらすことを勧めている。寝袋なら、足を乗せる場所ではなく、袋の底の空間を温める役に回すと当たり続けにくい。
- 寝る前に寝袋から出す。これが本命だ。ここは消費者庁の2つの資料で書き方が分かれているので、分けて書く。ウェブページのほうは「長い時間 体をくっつけたままにしない。就寝時に布団を暖める目的で使うなら、就寝前に布団から出す」。チラシのほうは「布団が暖まったら、布団から取り出す」。文言は違うが、行き着く先は同じだ。先に寝袋へ入れておいて、横になるときに足元から抜く。🔵 どれくらい前に入れておくかまでは出典に書かれていない。寝袋に手を入れて温まっていれば十分、という程度の話だ。
「せっかく温めたのに出すのはもったいない」と思うかもしれない。ただ、湯たんぽに背負わせる役割を一晩ずっと抱えるものから寝る前に温めておくものへ切り替えるだけで、消費者庁もNITEも揃って挙げている対策のいちばん大事なところは満たせる。
体の感じ方が鈍りやすい相手には、もう一段 慎重にしたい。タンゲ化学工業は、乳幼児・高齢者・病人のほか、疲労の激しい人や酔っている人が使う場合は周りの人が気をつけるよう促している。設営で歩き回った日の夜、焚き火で一杯やったあと——キャンプはこの条件がわりと簡単にそろう。そういう夜は湯たんぽを寝袋に持ち込まない、という選び方も普通にありだと思う。
ちなみに事故の規模感はこうだ。消費者庁によれば、事故情報データバンクには2015年11月からの5年間(令和2年10月まで)に湯たんぽ関連で108件の情報が寄せられ、うち68件がやけど、そのうち31件は治療に1か月以上かかる重傷だった。件数が多いのは12月から2月の時期で、寒くなって使う機会が増えるためだろうと同庁は見ている。件数そのものは多くないが、起きたときに長引く割合が高い。
直火にかける湯たんぽは、加熱の手順のほうで事故になる
キャンプで人気なのは、金属製で直火にかけられるタイプだ。前夜の冷めた湯をそのまま火にかけ直せるので、湯を沸かして移し替える手間がいらない。ただしここには、低温やけどとは別の、もっと即物的な危険がある。
🔵 先に断っておくと、この節は湯を入れて使うタイプに限った話だ。消費者庁も、湯たんぽには何種類かあってそれぞれ注意点が違うと断ったうえで注意喚起を出していて、参考資料には蓄熱式や電子レンジ加熱式に関するものも並んでいる。加熱の手順はタイプごとに別物なので、まとめては語れない。
湯たんぽメーカーのマルカ株式会社は、金属製を直火で加熱する場合もIHクッキングヒーターで加熱する場合も、キャップ(口金)を外して行うことを条件にしている。同社が加熱できるとして挙げているのは金属製の一部の型番で、蓋の一部が赤いプラスチックの廃番品は直火もIHも対象外だとしている。「金属製だから火にかけられる」ではなく、型番ごとに決まっているということだ。🔵 なお、同社が直火・IHの可否を答えているのは「金属製湯たんぽ」の設問で、加熱できる商品として挙がっているのも金属製の型番だけだ。ポリ製の設問には可否を明示した記述が見当たらず、本体の耐熱温度が110℃と案内されているにとどまる。「書かれていない=かけてよい」ではないので、迷ったら説明書とメーカーに当たってほしい。
湯の量にも指定がある。同社はキャップを締めるときに口元まで満水にすることを必須としている。理由も書かれていて、内部の空気の層が少ないほど、熱で膨らんで冷えて縮むときの負担が小さくなるためだという。満水でないと、冷めたときに内部が減圧して、キャップが開かなくなる・本体がへこむといった形で壊れやすくなる。「少し空気を残したほうが安全そう」という直感は、この製品では逆になる(マルカ株式会社 よくあるご質問)。同社は口元の止水を担うゴムパッキンについて、1年ごとの交換も勧めている。
消費者庁のほうも、使う前に亀裂や破損がないかを点検すること、製品ごとに指定された加熱方法と加熱時間を守ることを挙げている。キャンプは持ち運びで湯たんぽがぶつかる機会が多い。積み込む前に口金まわりを一度 見ておくといい。
「低温やけどかな」と思ったときは
消費者庁のチラシに載っている事例は、プラスチック製の湯たんぽを使って寝ていて、右足かかとの内側が2cm大の水疱になっていた、というものだ。同庁は、傷が皮膚の内側の層まで届いていることがあるため、外から見た印象で軽いと判断しないよう注意を促している。
だから、皮膚の変色・痛み・違和感といった異常に気づいたときは、自分で判断せず、皮膚科など専門の医療機関を受診する。消費者庁が案内しているのはこの形で、タンゲ化学工業も、万一そうなったときはすぐ専門医に診てもらうよう案内している。ここから先は俺が書ける範囲を超える話なので、判断は医療側に渡してほしい。
湯たんぽ1本で、冬の夜を組まない
湯たんぽが冬キャンプで薦められる最大の理由は、テント内で燃焼を伴わないことだ。これはそのとおりで、暖房器具を持ち込むかどうかの判断とは切り離して考えていい。ただ、湯たんぽが担えるのは「寝る前後の底上げ」までで、夜通しの暖房ではない。
冷える夜は、装備・服装・換気の三方向で組む。テント内で火を使う選択をするならキャンプの一酸化炭素中毒対策|換気の正しいやり方と、警報器に頼りきってはいけない理由を、着るもので寄せるなら9月キャンプの服装|朝晩の冷え込みは何℃?気象庁の平年気温から決める重ね着と、避けたい1枚を先に読んでおくと、湯たんぽに背負わせる量が減る。背負わせる量が減れば、長時間ぴったり当て続ける必要もなくなる。結局そこに戻ってくる。
まとめ
- 低温やけどは温度だけでは決まらない。温度と接触時間の組み合わせで決まり、44℃という心地よい温度でも数時間で起きうる
- 寝袋は、同じ場所に当たり続けやすく、眠っていて気づけない。条件がそろいやすい場所だと知っておく
- 対策は温度を下げることではなく置き方。包む・当てる位置を変える・寝る前に寝袋から出すの3点
- 包むのは時間を稼ぐ手段であって、防ぎきる手段ではない
- 湯を入れて使うタイプは、直火・IHにかけられるかどうかが型番ごと。加熱時はキャップを外し、湯は口元まで満水にする(マルカの案内。蓄熱式や電子レンジ加熱式は別の製品なので、手元の説明書に従う)
- 見た目より深いことがある。異常を感じたら自分で判断せず医療機関へ
湯たんぽは、火を使わずに済むという一点で冬キャンプの強い味方だ。使い方を「一晩抱えるもの」から「寝る前に温めておくもの」に置き換えるだけで、この記事の中身はほぼ守れる。
参考にした情報源
- 消費者庁「ゆたんぽを安全に正しく使用しましょう!」(2020年12月16日公表)
- 消費者庁「ゆたんぽによる低温やけどに注意しましょう!」(チラシ・PDF)
- 製品評価技術基盤機構(NITE)製品安全情報マガジン Vol.441「低温火傷による事故」
- マルカ株式会社 よくあるご質問(直火・IH加熱の可否、湯量、耐熱温度、パッキンの交換時期)
- タンゲ化学工業株式会社「低温やけどについて」
🔵 本記事の数値と注意事項は、上に挙げた資料に基づいている。運営者が実際に試した体験や、他の方の口コミは含まれていない。製品ごとの可否や手順は、必ず手元の取扱説明書を優先してほしい。


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