焚き火で焼いた焼き芋が、思ったほど甘くならない。外は真っ黒なのに、割ってみると中はホクホクどころかパサパサ。これ、火力が足りないせいだと思われがちだが、原因はたいてい逆だ。
さつまいもの甘みは、加熱中に芋の中の酵素がデンプンを糖に変えてできる。ところがその酵素は、デンプンが糊化する温度まで上がらないと仕事にかかれないのに、70℃前後で壊れてしまう。使える温度の窓が、上下から挟まれてとても狭い。焚き火の炎に放り込むというのは、この窓を一瞬で走り抜けてしまう焼き方なのだ。
この記事は、その窓を焚き火という乱暴な熱源でゆっくり通すための具体的な手順をまとめたものだ。包み方、置く場所、焼き上がりの見分け方、そして焼く前の芋の選び方と保存まで含めて、公的機関と大学が公開している資料をもとに確認していく。
目次
結論:焚き火の焼き芋で狙うのは「火力」ではなく「時間」
先に結論から書いておく。焚き火で甘い焼き芋を作るためにやることは、この3つだけだ。
- 炎が落ち着いて熾火(おきび)になるまで待つ。燃え盛る炎の中には入れない
- 濡らした新聞紙で包んでから、アルミホイルで包む。順番を逆にしない
- 熾火の中心ではなく、周りの灰に埋めて放っておく。時間で判断せず、竹串で確認する
「もっと強火で一気に」という発想は、焼き芋に関してはまるごと裏目に出る。急いで焼いた芋は、火が通っていても甘くない。ここが他の焚き火料理といちばん違うところだと思っておいてほしい。
なぜ甘くなるのか:狭い「温度の窓」の話
加熱前の芋には、甘みの主役がほとんど入っていない
焼き芋の甘みの主成分は麦芽糖(マルトース)だ。ここが意外なところで、麦芽糖は最初から芋に入っているわけではない。日本いも類研究会(一般財団法人いも類振興会)は、さつまいもに含まれるβ-アミラーゼという酵素が、加熱されて糊化(こか)したデンプンに作用して麦芽糖を生成すると説明している。つまり甘さの大部分は加熱中に作られるということだ。
もちろん、もとの芋の糖度がまったく関係しないわけではない(これは後半で触れる)。それでも、焼き方が変われば同じ芋でも仕上がりは変わる。ここを押さえておくだけで打つ手が増える。
窓の下限はデンプン、上限は酵素が決めている
同じ日本いも類研究会の解説によると、デンプンの糊化開始温度は概ね65〜75℃位。一方でさつまいものβ-アミラーゼは耐熱性が高いほうではなく、失活(働かなくなる)温度は品種間で差があるものの70℃前後とされている。そして麦芽糖ができるのは、デンプンが糊になる温度をすでに超えていて、なおかつβ-アミラーゼが熱でやられきる手前——その間にいるあいだだけ、と説明されている。
ここが焼き芋の難しさの核心だ。下限を決めているのはデンプン側(糊化しないと酵素が働けない)、上限を決めているのは酵素側(熱で壊れる)。そしてその2つがほとんど重なっている。同じ解説は、この70℃あたりをどれだけ長く通過させられるかが、甘い焼きいもになるかどうかの分かれ目だとしている。
「70℃前後で失活するのに、70℃前後を保て」というのは一見矛盾して見える。だが同解説が置いている条件は、酵素が「完全に」だめになる一歩手前まで、という言い方になっている。70℃前後はスイッチが切れる一点ではなく、酵素が働きながら少しずつ失活していく境目だと考えるといい。だからその手前をゆっくり通すほど、麦芽糖を作る時間が稼げる。
数字には資料によって幅がある。だから「何℃ちょうど」を狙わない
正直に書いておくと、この温度の数字は資料によって少しずつ違う。
- 日本いも類研究会:デンプンの糊化開始温度は概ね65〜75℃位、β-アミラーゼの失活温度は品種差があるが70℃前後。70℃前後の保持がポイント
- 名古屋学芸大学 管理栄養学部(調理学研究室 岡田希和子氏):β-アミラーゼの至適温度(よく働く温度)は60〜65℃、75℃を超えると失活する。大事なのは芋の中心の温度を、時間をかけて少しずつ上げていくことで、電子レンジのように一気に熱を入れるやり方は向かない、としている
- 農畜産業振興機構「月報 野菜情報」2008年12月:アミラーゼは60℃位で最もデンプンの糖化を進める
失活の目安ひとつ取っても70℃前後と75℃超で割れている。ピンポイントの正解温度を当てにいくのは、そもそも現実的ではないということだ。ましてや焚き火に温度計は刺せない。
だから実際にやるべきことは、「その窓を、できるだけゆっくり通す」に尽きる。中心温度が一気に100℃まで駆け上がる焼き方をすると、酵素が仕事をする時間がほとんど取れない。焚き火の炎に直接入れるというのは、まさにそれをやっている。
なお、この「低めの温度でゆっくり」という考え方は焼き芋に限った話ではなく、秋のキャンプ飯全体の組み立てにも効いてくる。献立ごと考えたい人は秋キャンプの旬の食材と献立の決め方のほうを先に読んでもらったほうが早い。ここから先は、焼き芋そのものの手順に絞る。
焚き火でその窓を通す、5つの手順
手順1:炎が落ち着いて「熾火」になるまで待つ
薪がまだ炎を上げて燃えている間は、焼き芋のタイミングではない。炎が収まり、薪が赤く光る熾火の状態になるまで待つ。火の起こし方そのものは焚き火のやり方完全ガイドにまとめてある。
逆算すると、焼き芋は「焚き火を始めてすぐ」ではなく「食後の後半戦」に向いている。熾火を長く保つには薪の量にも余裕がいるので、当日の薪が足りるかどうかは事前に見積もっておきたい(キャンプの薪は何束必要?一晩の目安)。
手順2:濡らした新聞紙 → アルミホイルの順で包む
芋を洗ったら、包む前に皮へ竹串やフォークで数か所穴を開けておく。芋の中に蒸気がこもらないようにするためで、オーブンで芋やじゃがいもを丸ごと加熱するときに穴を開けるのと同じ理由だ。
そのうえで、水気を残したまま新聞紙(またはキッチンペーパー)で包み、上から水をかけてしっかり濡らす。さらにアルミホイルを巻く。
ここから先の理由づけは、この記事が挙げている4つの出典に直接書かれているものではない。一般的な理屈としての説明だと受け取ってほしい。濡れた新聞紙は、水そのものが熱を吸い、紙が熾火との間の緩衝材になるため、内側の温度が急に上がるのを和らげてくれると考えられる。アルミホイルは、その水分をすぐには逃がさないための覆いという位置づけだ。向きとしては、名古屋学芸大学が言う「中心の温度を時間をかけて上げる」という原則から外れてはいない。
逆にアルミホイルだけで包むと、甘さの点では不利になりやすい。金属は熱をよく伝えるので、緩衝材なしで熾火に接すれば表面から一気に加熱されるためだ。「ホイルで巻いたのに甘くない」というときは、これを疑ってみてほしい。
手順3:熾火の「中心」ではなく、周りの灰に埋める
包んだ芋を、赤く燃えている熾火のど真ん中に置いてはいけない。狙うのは熾火の周辺、灰がたまっているあたり。燃えさかっている部分に直接触れさせるより穏やかに熱が伝わると考えられ、この窓を長く通すのに向いている。
直火が禁止されているキャンプ場では、当然ながら焚き火台の上で行う。焚き火台の灰の中に埋める形になるので、灰をある程度ためた状態にしておくとやりやすい。地面や芝生への影響が気になる場合は、焚き火シートで芝生は守れる?もあわせて確認しておくといい。
手順4:途中で1〜2回、向きを変える
熾火の熱は均一ではない。放置しっぱなしだと、下側だけ黒焦げで上側は生、ということが起きる。火ばさみで、途中に1〜2回ひっくり返す。素手はもちろん論外だが、薄い軍手も危ない。革のグローブと火ばさみは必ず用意しておこう。
手順5:時間ではなく「竹串」で判断する
ネット上には「◯分で焼ける」という数字がいろいろ出回っているが、芋の太さと熾火の状態で大きく変わるので、時間はあてにしないほうがいい。判断は物理的にやる。
竹串(または細い金串)を刺してみて、抵抗なくすっと中心まで通れば焼き上がり。芯に硬さが残っていれば、まだ早い。太い芋ほど、驚くほど時間がかかると思っておいてほしい。
甘くならない、よくある3つの原因
原因1:炎の中に入れている
いちばん多いのがこれ。炎の温度は、酵素が生き残れる範囲を大きく超えている。表面は真っ黒に炭化しているのに中が甘くない、という典型的な失敗がこれで起きる。炎ではなく熾火、と覚えておけばまず外さない。
原因2:芋が太すぎる/細すぎる
太い芋は中心まで熱が届くのに時間がかかる。一方で細すぎる芋は、狙いの窓をあっという間に通り過ぎてしまい、甘みが乗る前に火が通ってしまうと考えられる。焚き火でやるなら、中くらいの太さのものを選ぶほうが失敗しにくい。
太い芋しかない場合は、縦半分に切って距離を縮めるより、より外側の穏やかな場所に長く置くほうが理屈には合っている。ただし「ゆっくり」には下限がある。中心がデンプンの糊化開始温度まで届かなければ、そもそも麦芽糖は作られない。外側に置いたときこそ、竹串で中心まで火が通ったかを必ず確かめてほしい。
原因3:そもそも「急いで火を通す」方向に寄っている
名古屋学芸大学の解説が電子レンジを例に挙げているとおり、短時間で内部温度を上げる調理法は、甘みの点では不利になる。焚き火の焼き芋は、その真逆をやるための調理だと考えたほうがいい。時間がかかるのは失敗ではなく、そういうものだ。
焼き方の前に:芋の選び方と、持って行くまでの保存
買うときに見るところ:切り口の蜜と、ひげ根
焼き方の話をしてきたが、スタート地点も選べる。農畜産業振興機構の「月報 野菜情報」(2008年12月)には、さつまいもの選び方も書かれている。よい芋の見分け方は、皮につやがあり、表面に傷やデコボコがなく、さわるとなめらかで張りを感じるもの。形は真ん中がふくらんだ紡錘形で、細すぎず太いもの。逆に極端に細いもの、黒い斑点や傷があるもの、ひげ根があるもの(繊維が多い)は避けるとされている。
そしてもう一つ、店頭で使える手がかりがある。同資料によると、カット面から蜜がにじんでいるもの、黒く固まった蜜のあとが残っているものは、糖が多い芋だと見ていいという。カットされた状態で売られている芋なら、ここを見てから買える。
新ものと貯蔵ものでは、甘さの乗り方が違う
農畜産業振興機構の「月報 野菜情報」(2008年12月)によると、さつまいものおいしい時期は新ものが9〜11月、貯蔵ものが1〜2月で、貯蔵ものの熟成がちょうど良くなるのが1〜2月頃、この時期に甘味が非常にのるとされている。
同資料では、温度と湿度を管理して芋を眠らせた状態に置くと、その間にデンプンが糖に変わって甘みが増すとも説明されている。つまり秋のキャンプで「思ったより甘くないな」と感じたとしても、それは焼き方だけの問題ではないかもしれない、ということだ。冬に向かうほど、同じ焼き方でも甘い芋に当たりやすくなると考えておくといい。
持って行くまでの保存:冷蔵庫とクーラーボックスに入れっぱなしにしない
ここは見落とされがちだが、けっこう効く。さつまいもは低温に弱く、冷蔵庫での保存は避けるべきだとされている。ただし適温の数字は、ここでも資料によって幅がある。
- 農畜産業振興機構:貯蔵に向く温度は12℃±2℃前後。寒さに弱いので冷蔵庫は避ける。乾かないように新聞紙などで包み、室温のまま置いておく
- 日本いも類研究会:貯蔵適温は13〜15℃、湿度80〜90%。寒さには弱いので気をつける必要がある。家庭なら、段ボール箱に入れて台所の隅や流し台のそばに置く程度で足りる。冷える地域では、新聞紙で包んでから発泡スチロールの箱へ入れるとより安心。ただし、ふたを閉め切ると湿気がこもって傷む原因になるので、密閉はしない
数字は割れているが、「冷やしすぎない・常温で置く・密閉しない」の3点は両者で一致している。一方で新聞紙にくるむかどうかは、両者で扱いが違う。農畜産業振興機構は乾燥を防ぐ方法として挙げているのに対し、日本いも類研究会では「少し寒い地域では」という条件付きのベター案で、ふだんは段ボールで十分だとしている。常温に置くことのほうが本体で、新聞紙は乾燥・寒さ対策のオプションと考えておけばいい。キャンプの買い出しで芋を買って、他の食材と一緒にクーラーボックスへ放り込む——これは、さつまいもにとっては良い環境ではない。芋だけはクーラーボックスの外に出し、常温で持っていくほうが理にかなっている。クーラーボックス内の温度管理そのものについては、クーラーボックスの保冷を長持ちさせる10のコツも参考になるはずだ。
安全と後片付けで、ここだけは外さない
- 直火の可否は、キャンプ場ごとに違う。「灰に埋める」という工程がある以上、直火が禁止されている場所では必ず焚き火台の上で行う。利用規約は事前に確認しておくこと
- 革グローブと火ばさみを使う。灰の中の芋は想像以上に熱い。取り出してすぐアルミホイルを開けると、中の蒸気でやけどをする。少し置いてから、顔を近づけずに開ける
- アルミホイルは燃えてなくならない。灰の中に残るので、必ず回収して持ち帰る。焚き火台の灰も同様で、処理方法はキャンプ場の指示に従う
- 片付けの時間を計算に入れる。焼き芋は熾火の後半でやる料理なので、終わったあとも火の始末が残る。就寝時刻から逆算して始めるのが安全だ
よくある質問
アルミホイルだけで包むのはダメですか?
できないわけではないが、甘さの点では不利になりやすい。アルミホイルは熱をよく伝えるので、緩衝材がないと表面から急に温度が上がる。この記事で見てきたとおり、甘みを作る酵素はゆっくり温度が上がることで働く時間を稼げる。濡らした新聞紙を1枚挟むだけで条件が変わるので、手間の割にはリターンが大きい。
焚き火台がない日は、どうすればいいですか?
ダッチオーブンやスキレットで、弱めの火にかけて時間をかける方法もある。原理は同じで、中心温度をゆっくり上げられるかどうかがすべてだ。使い方はダッチオーブンの使い方完全ガイドにまとめてある。強火で短時間、という方向にだけは寄せないこと。
焼きすぎるとどうなりますか?
火が通りきったあとも長く加熱を続けた場合、酵素はすでにほとんど失活していると考えられるため、そこから甘みが大きく増えることは期待しにくい。表面が炭化していくだけなので、竹串が通ったら回収するのが無難だ。
まとめ
焚き火の焼き芋で押さえるべきことは、結局のところ1つに集約される。甘みは火力ではなく、70℃前後の狭い窓をどれだけゆっくり通せたかで決まるということだ。
- 甘みの主成分は麦芽糖で、加熱中にβ-アミラーゼがデンプンから作り出す
- 窓の下限はデンプンの糊化開始温度(概ね65〜75℃位)、上限は酵素の失活温度(70℃前後、資料によっては75℃超)で決まる
- だから炎ではなく熾火。濡らした新聞紙とアルミホイルで、急な加熱を防ぐ
- 包む前に皮へ穴を開け、蒸気の逃げ道を作る
- 時間ではなく竹串で判断する。中心まで通っていなければ甘くもならない
- 買うときは切り口の蜜と黒い蜜の跡を見る。糖度が高い証拠とされている
- 芋は冷やしすぎない。冷蔵庫やクーラーボックスは避け、常温で持っていく
焚き火の前でただ待つ時間そのものが、キャンプでは悪くない時間だ。急がずにやってほしい。
参考にした情報源
- Q 焼きいもが甘いのはなぜですか?|日本いも類研究会(一般財団法人いも類振興会)
- Q さつまいもの保存方法を教えてください。|日本いも類研究会(一般財団法人いも類振興会)
- さつまいもの甘さの秘訣|名古屋学芸大学 管理栄養学部 調理学研究室 岡田希和子
- 月報 野菜情報「今月の野菜 さつまいも」2008年12月|独立行政法人 農畜産業振興機構
※ 温度や時期の数値は上記の各資料の記載に基づいています。品種や個体差、当日の火の状態によって結果は変わります。焚き火・直火の可否や灰の処理方法は、利用するキャンプ場の規則に必ず従ってください。

