「夏は普通に使えていたカセットコンロが、寒くなった途端に火が弱い」——毎年この時期に必ず出てくる話だ。ガスは残っているのに、炎が小さい。缶を振ると中身の音もする。壊れたわけでもない。
これ、缶の中身の「沸点」で説明がつく現象だ。そして原因が分かれば、対策も「気合い」ではなく理屈で決められる。
先に結論だけ言っておく。
- カセットガスの中身はブタンを主成分とした混合物。そのブタンには沸点の違う2種類がある(ノルマルブタン−0.5℃/イソブタン−12℃)
- 気温が沸点に近づくほど気化しにくくなる=火力が落ちる
- メーカー自身が「冬期の低温時及び器具によっては、ガスの出が落ちる場合があります」と明記している。異常ではない
- 低温時対応をうたう製品は「イソブタンの比率を高めた」ものだと説明されている
- ついでに缶には寿命がある。製造後の目安は約7年だ
なお「CB缶とOD缶、どっちを買うか」の話はここではしない。この記事はすでに手元にあるCB缶が、寒い日にどう振る舞うかに絞る。
目次
火力が落ちる正体は「気化しなくなる」こと
カセットガスの缶の中身は、液体だ。振るとチャポチャポ音がするのはそのため。液体のままではコンロは燃やせないので、缶の中で気体に変わって(気化して)から出てくる。
液体が気体に変わる温度が沸点だ。気温が沸点に近づくほど、缶の中の圧力が下がり、器具を燃やせるだけの勢いでガスが出てこなくなる。ガスは残っているのに火が弱い、という状態がこれだ。
実際の沸点はいくつか——SDSに書いてある
ここは推測しなくていい。岩谷産業が公開しているイワタニカセットガスの安全データシート(SDS)の「(別表)物理的及び化学的性質」に、成分ごとの沸点が数値で載っている。
| 成分 | 沸点 |
|---|---|
| プロパン | −42℃ |
| イソブタン | −12℃ |
| ノルマルブタン | −0.5℃ |
同じSDSの「3.組成及び成分情報」には、中身がこう書かれている。
化学名又は一般名 : 液化石油ガス(LPG/液化ブタン)(ブタンC4H10 を主成分とした炭化水素混合物)/濃度又は濃度範囲 : 95%以上
🔵 ここは正確に書いておく。SDSが言っているのは「ブタンが主成分」までで、ノルマルブタンとイソブタンの配合比は書かれていない。しかもこのSDSは1枚で複数の製品(オレンジの通常品・ジュニア・パワーゴールドなど)をまとめてカバーしている。「オレンジ缶の中身が何%か」は、公開資料からは読み取れない。
それでも見当は付く。ノルマルブタンの沸点は−0.5℃で、これがブタンの中では寒さに弱いほうだ。0℃前後になると、使える圧力でガスを送り出すのが難しくなってくる。
そしてメーカー自身が、低温時対応をうたう製品を「イソブタンの比率を高めた」ものとして別に売っている(後述)。裏を返せば、通常品はイソブタンの比率がそこまで高くないということになる。冬の朝に通常品の火が弱いのは、この線で説明が付く。
使っているうちにさらに冷える
もう1つ厄介なのが、使っている最中に缶が自分で冷えていくことだ。液体が気化するときに周りから熱を奪う(気化熱)ので、燃やし続けると缶の表面が冷たくなる。缶が冷えれば気化はさらに鈍る。
🔵 これは物理としてよく知られた現象だが、SDSが「使用中の自己冷却」について書いているわけではない。SDSに書かれているのは、次の一文だ(「7.取扱い及び保管上の注意」の取扱い7)より)。
冬期の低温時及び器具によっては、ガスの出が落ちる場合があります。
低温時に出が落ちること自体は、メーカーが仕様として書いている。壊れたと思って買い替える前に、まずここを疑ってほしい。
低温時対応をうたうCB缶は、中身の配合が違う
ではどうするか。沸点の低い成分が多く入った缶に替える——これが一番わかりやすい答えだ。
イワタニのカセットガス パワーゴールドは、公式に「イソブタンの比率を高めた低温時対応ボンベ」と説明されている。カセットガスのラインアップページでも、用途は「アウトドアや、低温時でのご使用に」とされている。
イソブタンの沸点は−12℃。ノルマルブタンの−0.5℃より11.5℃ぶん低い。同じ気温でも気化しやすいわけだ。
ここで大事なのは、これが「気合いの入ったガス」ではなく、単に中身の配合が違うだけだという点だ。値段が高いぶん火力が強いのではなく、低い気温でも本来の性能が出る。
🔵 なお、メーカーの用途表記は「アウトドアや、低温時でのご使用に」であって、「冬だけに使うもの」とは書かれていない。アウトドア全般と低温時の2つが並べられている。「暖かい季節に使ってはいけない」わけではないので、そこは誤解しないでほしい。
缶を分けておく習慣をつけておく
現場で困るのは「どっちの缶か分からなくなる」ことだ。通常品と低温時対応品を同じ箱に入れておくと、寒い朝に間違ったほうを持っていくことになる。
秋のうちに低温時対応の缶だけ別の袋にまとめておく。これだけで冬の朝の失敗が1つ減る。地味だが効く。
ついでに知っておきたい「缶の寿命」
ここは意外と知られていない。同じSDSの「保管」の項に、はっきり書いてある。
容器は製造後約7年以内を目安に使い切ってください。
ガスそのものより容器(缶)のほうに寿命があるということだ。物置の奥から出てきた何年ものか分からない缶は、この目安を超えている可能性がある。
あわせて、こうも書かれている。
容器に錆が発生している場合には、ガス漏れのないことを必ず確認して、できるだけ早期に使用してください。
錆びていたら「まだ使える」ではなく「早く使い切る」。これがメーカーの案内だ。錆はガス漏れの入口になる。
保管は「40℃以下・湿気の少ない場所」
保管条件も数値で示されている(同じく「保管」の項)。
容器は40℃以下の湿気の少ない場所にキャップをして保管してください。
さらにSDSの2ページ目、注意書きの【保管】にはこうある。
日光から遮断し、換気の良い場所で保管すること。容器を密閉しておくこと。
🔴 車内放置:別の燃料容器では、実測で60℃を超えている
「40℃以下」で真っ先に引っかかるのが車内放置だ。ここは体感ではなく、実測値がある。国民生活センターがガソリン携行缶で行った試験の報道発表から引く。
直射日光が当たる車内にガソリン携行缶を放置したところ、内容物の温度は60℃以上に上昇しました
報告書に測定の条件が書かれているので、そのまま挙げる。
- 実施:8月中旬の晴天日に、日当たりの良いアスファルト路面上で南東向きに停車させた普通乗用自動車内
- 容器:容量20Lのガソリン携行缶に満量
- 内容物:安全確保のため「ガソリンと比熱が近い軽油」を使用
- 結果:液面温度は直射日光が当たる助手席上で62℃、直射日光が当たらない後部荷室でも56℃
🔴 条件を落とさずに読んでほしい。これは真夏の・20L満量の・軽油の・ガソリン携行缶の話であって、カセットガス缶の試験ではない。250gのCB缶とは熱の入り方も量も違う。
それでも、「直射日光が当たる車内に置いた容器の中身が、夏には何℃まで上がりうるか」の実測としては十分に効く。62℃は、SDSの「40℃以下」を大きく超えている。夏場に車へ積みっぱなしにするのは、条件を外している。
「キャンプ道具は車に積みっぱなし」という人は、ガス缶だけは降ろすのが正しい。
🔴 ここだけは絶対に守ってほしい
寒いとどうしても「テントの中で使えば暖かいし、缶も冷えないのでは」と考えたくなる。これはやってはいけない。SDSの取扱いの項に、こう明記されている。
器具は車内・テント内等の狭い空間では絶対に使用しないでください。また屋内で使用する場合には喚気[原文ママ]に十分注意してください。一酸化炭素中毒や酸欠により死亡または重症の原因になります。
「絶対に」という言葉をメーカーが使っている箇所は、そう多くない。低温対策として缶を暖める方向に頭が向いたときほど、この一文を思い出してほしい。
もう1つ、缶の爆発につながる禁止事項も並んでいる(取扱い2)より)。
- 容器をストーブやファンヒーターなど熱気のあたる所に置かないでください
- 容器を電磁調理器の上には置かないでください
- 鉄板や鍋底がこんろの容器カバーを少しでも覆う使用はしないでください
3つ目は見落としやすい。大きい鉄板をカセットコンロに載せると、缶に熱がこもる。冬は「大きい鉄板で焼肉」をやりたくなる季節だけに、ここは注意しておきたい。
「缶をお湯につけて暖める」といった方法をすすめる声もあるが、本記事ではすすめない。メーカーが認めている使い方ではなく、加熱の度合いを自分で管理できないからだ。やるべきは、缶を暖めることではなく、最初から低温時対応の缶を持っていくことだ。
寒い日の現実的な手順
- 行く日の朝の気温を調べる。0℃に近い、あるいは下回るなら通常のCB缶は厳しいと判断する
- 低温時対応の缶(イソブタン比率を高めたもの)を持っていく。これが本筋
- 缶は40℃以下・日光の当たらない場所に保管。車に積みっぱなしにしない
- 古い缶・錆びた缶は冬の本番に使わない。製造後7年が目安。錆があれば早めに使い切る
- 火力が落ちてきたら、まず気温と缶を疑う。器具の故障とは限らない
- 🔴 テント内・車内では絶対に使わない。寒さより、こちらのほうがはるかに危険
まとめ
冬にCB缶の火力が落ちるのは、故障でも安物だからでもない。中身の沸点という、はっきりした物理の話だ。
- ノルマルブタン−0.5℃/イソブタン−12℃/プロパン−42℃(メーカーのSDSに記載)
- ただし各製品の配合比は公開されていない。分かるのは「ブタンが主成分」までと、低温時対応品が「イソブタン比率を高めた」ものだということ
- 「冬期の低温時に、ガスの出が落ちる場合がある」はメーカーが仕様として書いている
- 缶は製造後約7年が目安。40℃以下で保管。錆びたら早めに使い切る
- 🔴 テント内・車内での使用は絶対にしない
理由が分かっていれば、寒い朝にコンロの前でうろたえずに済む。缶を1本替えるだけで解決する話だ。いい冬キャンプを。
参考にした情報源
- 岩谷産業|安全データシート(SDS)イワタニカセットガス(別表の沸点、組成は「(ブタンC4H10 を主成分とした炭化水素混合物)」で濃度は「95%以上」、冬期の低温時にガスの出が落ちること、容器は40℃以下・製造後約7年以内、錆への対応、【保管】の「日光から遮断し、換気の良い場所で保管すること」、車内・テント内での使用禁止、熱気のあたる所・電磁調理器の上に置かない、鉄板や鍋底で容器カバーを覆わない)
🔵 このSDSは複数製品(オレンジの通常品・ジュニア・パワーゴールド等)を1枚でカバーしており、製品ごとの配合比は記載されていません。 - 岩谷産業|イワタニカセットガスパワーゴールド3P(イソブタンの比率を高めた低温時対応ボンベ)
- 岩谷産業|カセットガス ラインアップ(「アウトドアや、低温時でのご使用に」)
- 国民生活センター|ガソリン携行缶の取り扱いに注意(直射日光が当たる車内で内容物が60℃以上に上昇した試験結果。カセットガス缶の試験ではありません)


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